競馬サロン

2024/06/24 21:00
【ラジオNIKKEI賞2024 血統展望】開幕週の小回りコース 父サンデー系の逃げ先行馬を○○の有無でふるいにかける


≪今週の動画≫
皆さま、お元気ですか。血統サイエンティストのドクトル井上です。
宝塚記念は▲ブローザホーンが勝利。初めてのGIタイトルを手にするとともに、鞍上の菅原明騎手、管理する吉岡調教師にとっても初のGI勝利となりました。
◎ジャスティンパレスは想定以上に緩い馬場をこなせず。もうちょい走れる想定でしたがあそこまでやれないと素直に想定が甘かったですね……。
「一発あるなら☆ソールオリエンス」と戦前から言っていただけに、もう少しうまく馬券を組みたかったと反省しきり。せめて▲☆の馬連を押さえておけば良かったですね。見事なまでの後の祭りですが……。
気を取り直してこの記事では週末のラジオNIKKEI賞(GIII・福島芝1800m)の血統展望をば。ごゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
■過去のレース傾向
現在と同じ夏開催初週の日曜日に開催されるようになった2013年以降の11回のうち、父サンデーサイレンス系(父SS系)が10勝を挙げる。もちろん単純な出走頭数が多いのも要因ではあるが、とはいえこの成績は立派のひと言。勝ち馬は父SS系から選ぶのがベターだろう。
また馬場状態の良い開幕週に行われる重賞とあって、積極的に運んだ馬が強いのも特徴。昨年の勝ち馬エルトンバローズや一昨年の勝ち馬フェーングロッテンは、いずれも4角3番手とある程度位置を取るレースを展開していた。
ということでまず狙い目になるのが前で運べる父SS系。
2013年以降の当レースにおいて、逃げ・先行策を選んだ父SS系は【6-2-1-22】で勝率19.4%、複勝率29.0%をマーク。中団より後ろで運んだ同系は【4-1-4-41】で勝率8.0%、複勝率18.0%なので、軸にするなら位置を取れる方を選ぶのがベターと言える。
ちなみに差して連対した父SS系はアンビシャス(産経大阪杯勝ち)、フィエールマン(GI3勝)など先々のビッグレースで好走する馬が多いのでそこもセットで覚えておきたい。
父SS系の先行馬をチョイスしたうえでさらに篩にかけるならヘイローのクロスに注目。
「父SS系の逃げ・先行馬かつ父母間でのヘイロークロスを持つ」という条件に当てはまる馬のラジオNIKKEI賞における通算成績は【3-1-0-2】で勝率50.0%、複勝率66.7%というハイアベレージをマークしている。
■父SS系の逃げ・先行馬かつ父母間でのヘイロークロスを持つ馬のラジオNIKKEI賞成績
・2008年 ノットアローン
⇒6人気2着
・2013年 ダイワストリーム
⇒7人気7着
・2014年 ウインマーレライ
⇒5人気1着
・2020年 バビット
⇒8人気1着
・2022年 フェーングロッテン
⇒3人気1着
・2022年 オウケンボルト
⇒9人気10着
ヘイローの血は基本的に小回り向きの軽快なスピードが売り。この血を父母間をクロスさせ形質として表現させることで、コーナー4つの福島芝1800mという機動力が求められる条件への対応力が増すのだろう。
ちなみに2013年以降、唯一父SS系以外で勝利を収めた2021年のヴァイスメテオールも母父のキングヘイローからヘイローの血を補給していた。ここからもヘイローの有用性がお分かりいただけるだろう。
また父SS系以外でも、父母間ヘイロークロスを持つ馬からは2021年11人気2着のワールドリバイバルや2018年9人気3着のキボウノダイチなど、穴での好走馬が出現している。ちなみにこの2頭も積極策を選んだ馬だった。
ということでヘイローのクロスで小回り適性をチューンナップした逃げ・先行馬が強いという点を押さえておきたい。
■各馬の個別検討
▼ウインマクシマム
父はキタサンブラック、半姉ウインピクシスはクイーンSでドゥーラの2着、福島牝馬Sでコスタボニータの3着などコーナー4つの中距離重賞で活躍している。短距離馬だった母コスモアクセスに本格派の父という配合が共通していたため、ウインマクシマムも半姉と似たような小回りでの先行脚質に出た。
母父がロージズインメイなので、キタサンブラックが引くサンデーサイレンスとの間でヘイローのクロス(4×5)が発生する格好になる。レースの傾向から考えると、脚質的にも血統的にも適性はかなり高いと見る。
そもそも青葉賞の時点で「ラジニケでお会いしたい」と言っていたように、この馬については当初から小回り向きとの見立て。それが青葉賞であそこまで粘ったのがむしろかえって驚きだったりする。
確かに東京芝2400mのゆりかもめ賞を勝っているが、ラップを見るとラスト4-3F区間で1秒以上加速するレースだったことが分かる。大箱向きのストレッチランナーより小回り向きの機動力型の方がギアチェンジ能力には長けているので、その強みを活かせるレースだったのは間違いなく、決して大箱適性の高さで勝ったレースではないだろう。
小回りに替わり相手関係も楽になるここはしっかり狙っておきたいと考える次第だ。
ウイン冠の馬に跨る松岡騎手というのもいかにもラジニケっぽい文字列。思い返せばウインマーレライもヘイロークロス持ちの父サンデー系だった。
▼シリウスコルト
父のマクフィは名種牡馬ドバウィの初期の代表産駒で、英2000ギニーやジャックルマロワ賞を制した名マイラーだった。
日本におけるマクフィの代表産駒を見ると、ヴァルツァーシャル(マーチS)、オールアットワンス(アイビスSD連覇)、ヴィジュネル(芝マイルのリステッドで2着2回)、ペイシャフェスタ(芝1400-1600mで4勝)といったあたり。
父に似てマイル前後の距離を得意とする馬が多く、オープンクラスの平地競走に限定すると2000m以上で馬券になったのはシリウスコルトのみという状況だ。
そのシリウスコルトもデビュー戦は1200mから下ろしたあたり、本質的にはスピードの勝ったタイプ。確かに芙蓉Sを勝ってはいるものの、スローペースで距離を誤魔化した感じもあって2000mがベストとは思えない。今回の1800mへの短縮はプラスになると判断したい。
確かにマクフィが芝の重賞、しかも中距離で足りるのか? という点はやや気がかりだが、ここに入れば実績上位の存在で、少なくとも押さえの印は回しておきたい。
▼サトノシュトラーセ
ハーツクライ産駒のジャスタウェイを父に持ち、母にはニニスキやデインヒルが入るということで、配合のアウトラインとしてはサリオスに相通ずるものがある同馬。
サリオスとの違いを挙げるとすれば、ジャスタウェイからアメリカン先行血統のワイルドアゲインを引くので、その分こちらは先行脚質に出たという点だろう。
ジャスタウェイにデインヒルの組み合わせはルージュエヴァイユやダノンザキッドっぽさもあって、配合だけ見るとどちらかと言えば広いコース向きな感じもあるが、その一方で距離を考えると、前走の2400mよりも今回の1800mの方がプラスに働きそう。
ジャスタウェイ×デインヒル持ちの母という組み合わせは2100m以上ではあまり成績が振るわないので、前走の青葉賞@東京芝2400mはさすがに少々距離が長かったと言えそう。
大箱向きっぽいとはいえ、なんだかんだコーナー4つの競馬はこれまでのレースを見ても十分に対応しているし、ハイレベル戦の京都2歳S3着と言う地力を考えれば、当然ながらある程度評価せざるを得ないよね? というのが今のところの感触だ。
▼ミナデオロ
父はレイデオロ、母ゴールデンドックエーは米G1ラスヴァージネスS(※当時の格付け。現在はG3)の勝ち馬で、半兄アルバートドックは小倉大賞典と七夕賞を制した。
個人的にレイデオロの産駒は距離があった方が良いイメージ。語弊を恐れず言えば追走力に若干の不安がある印象で、現状は道中ゆったり運べる条件の方が良いと考えている。
それと関連して面白い傾向が出ているのが芝1800mでの成績。
芝の1800mは競馬場によってコーナーの回数がガラッと異なる条件で、いわゆる小回りコースであればコーナー4回、大箱と呼ばれるコースではコーナー2回、ワンターンの競馬になる。これが1600m以下だとどの競馬場でも大抵ワンターンだし、2000mになるとたいがいコーナーは4つになるので芝1800mはちょうど分岐点になる条件なのだ。
その芝1800mにおけるコーナーの回数でレイデオロ産駒の成績を分けると以下のようになる。
■レイデオロ産駒の芝1800mにおけるコーナー回数別の成績
コーナー2回【7-3-8-42】
勝率11.7% 連対率16.7% 複勝率30.0%
単勝回収率75% 複勝回収率141%
コーナー4回【0-1-1-15】
勝率0.0% 連対率5.9% 複勝率11.8%
単勝回収率0% 複勝回収率32%
ご覧のとおり芝1800mではコーナー2回でなければ走れないという傾向にある。これも先に述べた追走力不足が影響しているという見解で、ワンターン1800mだと道中はスローで流れての直線勝負というのが多くなる一方、小回りだと道中からそれなりにポジション争いが発生するため中盤の追走力を求められがち。
そのため、追走力に難のあるレイデオロ産駒が小回りの芝1800mで苦戦する傾向に繋がっているのではなかろうか? と考える次第だ。
ミナデオロが勝った2戦はいずれもワンターンの京都芝1800mが舞台だった。ただでさえ道中ゆったり流れての直線勝負になりやすい条件のうえ、前走の白百合Sは前半1000mの通過が60秒9というスローペースで、追走力不足を誤魔化しやすいラップ構成になった。しかもミナデオロは楽逃げで負荷の少ないレースに持ち込めたわけだ。
そこから先行馬が複数いる小回りコーナー4つの福島1800mに替わるのは条件としてはかなり厳しくなる印象。リステッド勝ちで人気するようなら評価を下げる手はあると考える。
▼オフトレイル
父のファーはヌレイエフ系ピヴォタルの産駒。同い年に“怪物”フランケルがいたので、マイル路線ではなかなかGIを勝てず、かといって中距離路線ではナサニエルやソーユーシンクなどの実力馬がおり、GI勝ち鞍はロッキンジSと英チャンピオンSのふたつだけに留まったものの、キャリア10戦で5勝2着4回3着1回と、安定感のある成績を残した。
種牡馬入りしてからもピヴォタル由来の手堅いスピードを産駒に伝え、キングオブチェンジ、フォンテーンという2頭のGI馬はいずれもマイル路線で活躍した。
オフトレイルの場合、母がキングマンボ×デインヒル×オーストラリア血統という格好なので、やはりベストは1600mに見える。正直に言って、1800mは1ハロン長いのではなかろうか? というのが第一印象。
しかしながら、今回と同じ芝1800mだった前走の白百合Sは外回りコースで直線が長かったのに対し、今回は小回り福島に条件が替わる。これまでのオフトレイルを見ていると、内回りコースでパフォーマンスを上げる傾向にあるので福島に替わる点はプラスだろう。
▼セットアップ
父のデクラレーションオブウォーはダンジグ系ウォーフロントの産駒。現役時代はマイルのGI・クイーンアンSと10FのGI・英インターナショナルSを制した。
日本での供用前にアイルランドとアメリカで種牡馬生活を送り、仏2000ギニー勝ち馬のオルメドや米国の芝GIで活躍したグーフォなどを送り出した。日本だとファルコンSを制したタマモブラックタイや札幌記念2着のトップナイフあたりが代表産駒だ。
セットアップの前走は果敢に海外レース(サウジダービー)へと挑戦。見た目には大敗だったが、そもそもマイルの距離は少し忙しかったのと、3着だった米国馬ベントルナートに早めに来られたのが響いた印象。
ベントルナートは生粋の短距離馬で、1400m以下の競走では無敗のスピード馬。追走スピードの差で早めにプレッシャーをかけられる形になり、初ダートだったセットアップにとってはかなりの負荷となった。大敗やむなし。
2走前の朝日杯FSは外枠からシュトラウスがぶっ放した影響を受け、マイルなのに前半600m通過が34秒1という超ハイペースに巻き込まれる格好に。それを2番手で進めていたのではさすがに最後は失速する。それでも勝ったジャンタルマンタルから0秒5差の7着であれば、十分に粘ったと言えるはずだ。
今回は3戦2勝の芝1800mに条件が戻る。しかもコーナー4つの小回り戦だ。この条件で先着を許したのは後のホープフルS勝ち馬レガレイラのみ。
この小回り適性の高さはラーイとサンデーサイレンスを経由するヘイロークロスがその一端を担っているはず。開幕週でこの馬の先行力が活きる可能性は十分にあるだろう。ここ2走の着順と洋芝巧者な戦績から人気が落ちるようなら逆張りする価値はある。
■まとめ
まずは狙い目のパターンに当てはまるウインマクシマムに要注目。強気な先行策を取れればチャンスは十二分にあろう。
またマイルが舞台だった近2走を度外視したうえで、今回得意の小回り1800mに舞台が戻るセットアップも狙ってみたい存在。ハンデは重いがこの条件替わりは魅力的に見える。
枠と週末の馬場コンディションを見つつ、最終結論は土曜日の夜に公開いたしますので、そちらもどうぞお楽しみに。
<プロフィール>
“血統サイエンティスト”ドクトル井上
在野の血統研究家。旧知のオーナーを中心として、セリや配合のコンサルティング業務を請負中。
好きな種牡馬はダノンレジェンドとハービンジャー。苦手な種牡馬はMore Than Ready。
凱旋門賞馬Ace Impactの血統表は芸術品なので、ルーヴル美術館に収蔵されるべきとわりと本気で考える三十路の牡馬。

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