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UMAJIN.net編集部

2018/12/29 17:00

その名は、ラインクラフト。ホープフルS優勝馬サートゥルナーリアの勝利に寄せて。

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サートゥルナーリア(母:シーザリオ)が無傷の三連勝で幕を閉じた今年のホープフルS。

最後の直線は、外から被せにいった福永騎手のブレイキングドーンに進路を阻まれる場面もありながら、逆にそのブレイキングドーンを内から外へドーンと弾き返し、視界が開けた後は、飄々とした表情でゴールイン。




半兄のエピファネイアは、精悍な顔つきで他を圧倒するようなオーラを身に纏った競走馬でしたが、弟のサートゥルナーリアは父がロードカナロアに変わったこともあるのでしょう、アーモンドアイにも通ずる可愛らしい瞳と、母シーザリオ譲りの額の白斑が印象的な競走馬です。

負けるとすれば、日本ダービーを見据えた騎乗が裏目に出た場合かなと、要は後方待機策のレースプランも想定していましたが、いざ蓋をあけてみれば、待っていましたと言わんばかりのスタートダッシュを決め、先頭に立つサートゥルナーリアの姿をみてビックリ。

また、馬の感情は「耳」に表れるといいますが、一角に入るまでの彼の耳を見て二度目のビックリ。

一般的に耳の向きは注意や関心を示す方向へ、耳の角度についてはピーンと立てている場合は平常心、耳を後ろに伏せている際は興奮している状態と言われていますが、その際のサートゥルナーリアの耳は、真っ直ぐ進行方向に向いており、真上にピーンと立てた状態で疾走しているのです。それも何だかとても嬉しそうな表情で。

他の出走馬が軒並み、耳を後ろに伏せ、鞍上の意図を汲もうとしている中、彼だけは某自動車メーカーのキャッチコピーじゃないですが、ただ一頭「走る喜び」をGIの舞台で体現しているワケです。

職業柄、毎週競馬を観ていますが、2歳戦とはいえGIの舞台であれほど楽しそうに走っている競走馬を私はみたことがありません。

今年は桜花賞を勝った時点でルメール騎手から「トリプルクラウンを狙える」といった話が聞かれましたが、来年はこの台詞をそっくりそのままデムーロ騎手が発している気がします。

また、サートゥルナーリアには完敗だったものの、今は亡きアドマイヤラクティの半弟アドマイヤジャスタも2着の大健闘。

兄アドマイヤラクティは豪GIコーフィールドCを制し、1番人気の支持を得たメルボルンCのレース終了後に死亡。

長丁場のレースを終え、力尽きフラフラな状態だったにも関わらず、地力で馬房まで戻り、そこで息絶えてしまったという話を聞き、そんな姿を想像するだけで涙が止まりませんでした。

そうした経緯を持つアドマイヤラクティの弟が、この一戦を経てサートゥルナーリアとともに来春のクラシック戦線の中心メンバーに躍り出たワケですから、嬉しくないはずがありません。

そして、上記二頭から遅れての3着馬ニシノデイジーについて。

こちらは二冠馬セイウンスカイの血を残したいという西山オーナーの執念が実を結んだ一頭。

3代母のニシノフラワーは桜花賞含むGI3勝の快速馬ですから、仔馬の将来性を考えれば、実績上位の種牡馬との配合に落ち着いても何ら不思議ありません。

ところがどっこい、それらのプランを蹴ってまで自身の代表馬セイウンスカイをつけたあたり、西山オーナーの気概を感じますし、外国人騎手が席捲する中央競馬にあって、デビュー戦から一貫して勝浦騎手に主戦を託す姿勢も西山オーナーの魅力のひとつ。

また、何よりもニシノデイジーの活躍を通じて、セイウンスカイの菊花賞の逃走劇と杉本清さんの名実況「今日の京都上空は青空、セイウンスカイ!」を伝承いただける競馬ファンが増えてくれるといいなと思う次第です。

と、ここまで「ホープフルS」の上位3頭に纏わるエピソードトークを展開していますが、本記事で是が非でも紹介したい競走馬がいます。

その名は、ラインクラフト。

執筆者は私ではなく、競馬フリーペーパー「ウマフリ」の天才ライター・川井旭さんにバトンタッチした上でお届けします。

もちろん、ご本人様の了承を得ての掲載となりますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。


桜と木漏れ日の追憶-ラインクラフト-

2015年・朝日杯フューチュリティS。

一番人気と二番人気を分け合い、注目を浴びる2頭の競走馬がいた。
新馬戦とデイリー杯2歳Sを連勝したエアスピネルと、新馬戦を勝利したリオンディーズである。

しかしこの2頭が話題を呼んだのは、レースで見せていた強さ以外にも理由があった。「その母が共に2005年の牝馬三冠戦線を沸かせた」という血統のドラマを背景に持つのだ。

エアスピネルの母は、2005年・秋華賞の覇者。

リオンディーズの母は、同年オークスの覇者である。

そして、桜花賞の覇者はーー

朝日杯は、血統のプライドをかけた激戦であった。

馬群の中団につけたエアスピネルが、徐々にポジションを上げてゆく。そして迎えた直線。鞍上の武豊騎手は、満を持して追い出しに掛かった。

まさに横綱競馬。このまま決着がつくだろう……ファンがそう思った瞬間である。

最後方で温存していたパワーを爆発させるが如く、エアスピネルを標的に定め、鋭い末脚を発揮する1頭の馬がいた。

躍動する、黒鹿毛の馬体。

一瞬にしてエアスピネルを抜き去り2歳王者の座を手にしたのは、リオンディーズであった。

瞬時に記憶が甦る。

まるで10年前に時が戻ったかのように。1着シーザリオ、2着にエアメサイア。母子共に2005年オークスと同じ着順での決着であった。

そして同時に、多くのファンが1頭の牝馬の名を口にした。「産駒が見たかった」と、その年の桜花賞馬の名を。

彼女の名は、ラインクラフトーー



強豪ひしめく2005年・牝馬三冠戦線。

ラインクラフトは前哨戦であるフィリーズレビューを勝ち、桜花賞へと駒を進めた。

後のオークス馬であるシーザリオ、秋華賞を手にする事となるエアメサイアの3頭がここで初めて同時に邂逅を果たす事となる。

ゲートが開き、ラインクラフトは中団の前……絶好のポジションにつけた。

「去年の阪神ジュベナイルフィリーズは僕のミスで負けた。だから、桜花賞はどうしても勝ちたかった」

前年冬、その悔しさを共にした鞍上・福永騎手が桜花賞インタビューでそう語ったほどの、渾身の騎乗である。

人馬一体となり迎えた最終コーナー。ラインクラフトは抜群の手応えで先行集団を射程圏に捉えた。そして残り200m、その瞬発力を発揮する。

この舞台では、負けられない。

猛追するシーザリオ……後の日米オークス馬をアタマ差振り切った所が、桜花賞のゴールであった。

満開の桜に迎えられ、誇らしげな表情でウィナーズサークルに立つラインクラフト。

その背には、満面の笑みを浮かべる福永騎手。愛馬に寄り添う瀬戸口調教師ーー誰もが、笑顔の花を咲かせていた。

その後、誰もが驚くローテーションが発表される。ラインクラフトの陣営が選んだ次走はNHKマイルカップであった。

牡牝を問わず、三冠第一弾の覇者が参戦する事は前例のない挑戦だ。

ましてや牝馬である。

牡馬と互角に戦えるのであろうか。

ファンが固唾を呑んで見守る中、先行策をとり好位につけたラインクラフト。

最終コーナーをロスなく曲がり切ると、内を突いて残り300mで先頭に躍り出る。

後続の追撃は届かない。NHKマイルカップを制し、牡馬を退け「変則二冠馬」となったのはラインクラフトであった。

前例がなければ、先駆者となれば良い。彼女の適性を見抜いた陣営、好騎乗を果たした福永騎手、そしてラインクラフト自身のレースセンス。全てが合致した瞬間だった。

「変則三冠馬の誕生か」

期待の中、迎えた秋。立ちはだかったライバルこそ、エアスピネルの母エアメサイアであった。

秋華賞とその前哨戦、ローズS。ラインクラフトは共に、エアメサイアの2着に破れた。

そしてラインクラフトはその後も、G1で好走を見せた。

初の古馬との対戦であるマイルチャンピオンシップでは、牡馬を交えての3着。

翌年の高松宮記念では、惜しくもクビ差の2着。

しかしこのレースでラインクラフトは、ファンタジーSやフィリーズレビューで見せた短距離適性を、牡馬の中でも発揮したのである。

成長を遂げる、可能性に満ちたラインクラフト。

1400mを舞台とする阪神牝馬Sでは、エアメサイアに3馬身もの差をつけ、昨年秋の雪辱を果たした。

2頭は良きライバルであった。短距離・マイルでは牡馬にも引けをとらない。

そんなラインクラフトに朗報が舞い込んでくる。2016年、府中で牝馬限定のマイルG1……ヴィクトリアマイルが新設されるというのだ。

昨年牡馬を退けNHKマイルを勝ち、変則二冠を手にした絶好の舞台。ラインクラフトは堂々の一番人気に推された。

しかし、いつもの末脚が見られず結果は9着。

どのような舞台でも好走し続け、こと短距離・マイルでは破格の強さを誇る彼女の、初めての……まさかの惨敗であった。

それでもラインクラフトは、NHKマイルカップで牝馬による変則二冠という道標となった。

3歳秋に牡馬を交えた古馬との対戦や、初の短距離G1で好走を遂げた。ファンの不安を一蹴し続けた競走馬である。

「ラインクラフトなら復活する。その復活劇が見たい」……ファンはそう信じ、放牧に出された彼女を見守った。

しかし……2006年8月19日の朝。

それは、目を疑うような報せだった。


ラインクラフト、死亡。


秋に向けての調教中、突然、歩様が乱れた。

異変を察知した乗り役が即座に下馬した。

そしてラインクラフトはその場に倒れ、息を引き取ったという。

死因は急性心不全……あまりにも早く駈け抜けた馬生であった。

短距離路線を歩む未来が描かれていたという。そのために8月下旬に栗東へ戻り、秋のスプリンターズSを目標にしていたという。

無限の可能性を抱いたまま、天才少女は空へと旅立った。

そして今、ラインクラフト・シーザリオ・エアメサイアが牝馬三冠を分け合った、2005年クラシックの激戦から13年の時が過ぎた。

三冠戦に挑んだ牝馬からは、朝日杯を制したリオンディーズ、重賞を3勝しマイル戦で活躍するエアスピネル、重賞を3勝しG1宝塚記念で牡馬と戦ったディアデラマドレ、天性のスピードを武器に障害重賞で活躍したサナシオンなどのスターホースが誕生した。

競馬に「もしも」は存在し得ない。

しかし、ラインクラフトの産駒が産まれていたら、どのような競走馬になっていたのだろうか。

可愛らしい顔。

稲妻の形をした流星。

厩務員に甘えるようにすり寄る姿。

そして何より、短距離からマイルで見せた安定感とその強さーー

受け継いで欲しかった、彼女の魅力。

ラインクラフトに産駒が誕生していたらーーその答えは永遠に出せず、同時にそれぞれのファンの心の中にあるのかもしれない。

仁川に咲き誇る満開の桜に、初夏の府中の木漏れ日に、そして彼女と激戦を交えた競走馬たちの産駒に、永遠の少女となった彼女の面影が甦る。

記憶と記録は、永遠に色褪せず残り続ける。牝馬三冠と呼ばれるレースは、2400mのオークス、2000mの秋華賞、1600mの桜花賞である。

ラインクラフトと牝馬三冠を分け合った2頭の産駒がワンツーフィニッシュを決めたG1、朝日杯フューチュリティS。

その舞台となった距離こそラインクラフトが変則二冠を達成した、彼女が大輪の華を咲かせた舞台ーーマイル戦であった。

執筆者:川井旭

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