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【競馬本 この一冊!】銀の匙 Silver Spoon

週刊少年サンデー誌上での連載がスタートして、約1年が経過。アニメ化されるなど大ヒットしたダークファンタジー漫画「鋼の錬金術師」の作者・荒川弘さんが現在取り組んでいる作品が「銀の匙 Silver Spoon」だ。都会育ちの青年が雄大な自然に囲まれた農業高校に入学し、様々なカルチャーギャップに直面しながら成長していく異色の青春ストーリー。 主人公が生き物を扱う“現場の常識”に戸惑うシーンが頻出し、舞台は北海道ということもあって競馬漫画の名作「じゃじゃ馬グルーミンUP!」を否応にも思いおこしてしまうところ。ただ「じゃじゃ馬?」とは異なり、描かれているのはあくまで高校生活。純然な競馬漫画ではないのだが、それでも競馬ファンにとって「おっ」と思えるシーンが幾つか出てくる。 たとえば馬術部に入部した主人公が、初めて馬に跨る場面(単行本1巻「春の章4」)。おそるおそる跨った後、背筋を伸ばし一気に高くなった視線を表現するため、見開きで描かれた風景描写がとにかく素晴らしい。「ただ高いだけじゃない… 生き物に乗っているからかな… 高いのに地面とつながってる感じがする…」と、いう心象セリフも秀逸のひと言。「じゃじゃ馬?」の作者ゆうきまさみさんが「しまった、『じゃじゃ馬』でこれを描き忘れた」「馬の目線の高さに感動するのは自分が経験していたことなのに、それを描き忘れて悔しい」とツイッター上で嫉妬(?)したほどに印象的なシーンだ。 また主人公たちがばんえい競馬を観戦するエピソード(単行本1巻「春の章5、6」)での、迫力ある追い比べのシーンも印象深い。「どるああああああああ」といった掛け声の描き文字や、吐かれる息の描写などでばん馬の力強さをこれでもか、と伝えてくれている。その後訪れるばん馬の診療所でのやりとりも、競馬ファンにとっては非常に興味深い内容だった。 「鋼の錬金術師」では錬金術による生命再生を物語の軸としてファンタジー世界で少年が戦い、「銀の匙」では生き物を食べ物とすることを現代の青年が高校で学んでいく。舞台や設定にこそ大きな隔たりがあるが、荒川さんの作品に通底しているのは「いのちとは何か」という問いかけだ。種付けなどの繁殖、予後不良といった話題に常々触れている競馬ファンにとって「経済動物のいのちとは」は常に考えさせられている要素なだけに、この作品で展開されるストーリーはスッと沁み込んでくるはず。 上述2エピソードのためだけでもこの作品を手に取るべし、と強調したいが「いのちとは」という想いが重なる点においても、競馬ファンにとってオススメの一作だ。

(UMAJIN編集部)
■「銀の匙 Silver Spoon」(既刊2巻) 著者:荒川弘 発行:小学館 定価:1巻、2巻ともに440円(以下続刊) ★前回のオススメ本はコレ! 消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡 ★ネクストシーズンの戦いは始まっています! 「UMAJIN POG」ページでは「2012-2013」シーズン用のデータを公開開始!
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