2011/02/11
【月刊UMAJIN編集部】インタビュー・コラム「「独占!」【月刊UMAJIN編集部】インタビューコラム」
四位洋文&安藤勝己&横山典弘/四位洋文のディープな世界 Vol.2
-
四位洋文のディープな世界「ここだけの話をしよう」
安藤勝己×横山典弘×四位洋文。今回は日本を代表するトップジョッキー3人が、北の大地でガチンコトークを展開! それぞれのダービー観から将来の夢まで、少々(?)のお酒で舌もなめらかに──タイトルにふさわしいディープな競馬談義に夜は更けていった!
(2009/8/13発売 UMAJIN No.04に収録)
撮影=西原敏弘、小岩章次(レース) 取材・構成=不破由妃子
ダービージョッキー3人による「ここだけの話」
『この3人ならおもしろい話ができるかもしれない』
四位騎手からのありがたい提案によって、今回の豪華会談が実現した。いやはや、競馬誌史上初の組み合わせなのはもちろん、今後もなかなかお目にかかれない夢の競演である。安藤勝己騎手は所用により途中参戦となり、まずはプライベートでもよく飲みにいくという、横山典弘騎手と四位洋文騎手のダービー談義からスタート!
技術だけじゃない、選ばれた人間が勝つ
四位 まずはノリちゃん、2000勝おめでとうございます。
横山典 ありがとう。2000も勝っちゃったんだね! ただ、終わって2000じゃないから。まだまだ先があっての2000。目指せ、武豊!
四位 それから、改めてダービー優勝おめでとうございます。俺、検量室でレースを見てたんですけど、ひとりで拍手してましたよ。感動した。ホントに感動した。
横山典 四位が2回も勝って俺が勝てないわけねぇ!って思ってたら、やっと勝てました(笑)。
四位 皐月賞はノリちゃんも期待していて、実際1番人気で。それで結果が出なかったあとのダービーですもんね。
横山典 皐月賞のあとは、ホントに天国から地獄だったよ。でも、そうなる可能性もあるなぁって思ってた。弥生賞の前から、おかしいなって感じはあったからね。でも俺は、ダービーを?勝った?っていうより、?勝たせてもらった?っていう気持ちでいっぱい。本当に馬に感謝です。四位のディープスカイのときとは、また違うからね。負けねぇよ! って挑んだレースではなかったから。
四位 昔、ノリちゃんにいわれましたよね。『ダービーっていうレースは、へらへら笑っているようじゃ絶対に勝てない』って。大人になっていくにつれて、競馬がどういう仕組みで成り立っているのかわかるようになって、それでダービーっていうレースの重みを実感するようになっていくんですよね。
横山典 だって7000頭(1年で国内生産されるサラブレッドの頭数)からの頂点だよ。でも、その重みが若いときはわからない。1頭にどれだけの人の手がかかって、どれだけの思いが込められているか。それがわかってくればくるほど重みを実感してくる。
四位 若いころはダービーっていうものがピンとこなかった。俺もここ3、4年ですよ。それまでは中間着順や後ろのほうばかりだったけど、ドリームパスポートで3着、シックスセンスで3着して、ちょっと見えてきたんですよね。そのぶん、ダービーっていう舞台の怖さもわかってきたし。
横山典 イシノサンデーのときはどうだったの? たしかまだ24、5歳のころだよな。あれは間違いなく、緊張するべきチャンスだったんじゃないの?
四位 あのときは、普通に勝てると思ってました。
横山典 ダービーを?
四位 はい。向正面で、この手応えなら勝てるって思ってましから。ナメてたんですよね、ダービーを。
横山典 でも俺もそうだった。向正面で?勝った?とか思うと、ろくなことがない。
四位 その時点で神様に選ばれてないんですよね。ダービーをナメてるから。ダメなんだよ、そんな気持ちでは。
横山典 そうだね。それが一番かも。ダービーを勝つには腕だけじゃなくいろんな要素が必要で、選ばれた人間だけが勝てるんだと思う。
ふたりを引き合わせたのは、メジロライアン!?
四位 最初は俺のこと、クソ生意気なヤツって思ってたんですよね?
横山典 思ってたよ。
四位 関西の四位ってどいつだ! って探し回ってるって聞いて。俺、怖かったですもん(笑)。
横山典 ちょうど俺がメジロライアンで皐月賞、ダービーって負けた翌年に、四位がデビューしてね(91年)。雑誌か何かで『僕がメジロライアンに乗っていたら、全部勝ってた』っていう四位のコメントを見たんだよ。
四位 そんなこといってないですよ!新人ジョッキーの取材のときに、『好きな馬は?』って聞かれて『メジロライアンです』って答えたら、なぜかそういうふうに書かれて、ノリちゃんにも伝わって。もうおっかなくて…(笑)。
横山典 でもね、俺は四位のことをデビューしたときから見てるけど、やっぱり光ってたよ。こいつ伸びてくるな?ってピーンときた。だって、どうでもいいヤツがライアン云々いってても、全然気にならなかったと思うし。
四位 でもそのころノリちゃん、金髪で。ホントにこわかったもん。パーマをかけただけで裁決に呼ばれる時代だったのに。ノリちゃんは武勇伝がいっぱいありますよね。ミスタードーナツでショーケースに入ってるドーナツを全部買っちゃったり(笑)。
横山典 俺たちは勝たせてもらったら厩舎にビールとかを差し入れるけど、アメリカではドーナツを届ける習慣があるって聞いてて。それが頭のなかにあってさ。本当は何個かだけ買って帰ろうと思ってたんだよ。でも「どれにします?」っていわれて、つい「全部ちょうだい!」って(笑)。
四位 そのドーナツをきっかけに、みんな酔っぱらうとめちゃめちゃ買い物をするようになって(笑)。ノリちゃん、カップラーメンもすごい数買ってましたよね。
横山典 四位は?じゃがりこ?な。
四位 そうそう。ブシ(武士沢騎手)が『四位さん、僕のじゃがりこ食べたでしょ!』っていってきたんですよ。俺食べてないのに。頭にきたから、その日の夜、帰り道にあるコンビニに全部寄って、?じゃがりこ?買い占めて。寮の玄関にピラミッドのように積み上げてやりましたよ(笑)。
横山典 見たよ、そのピラミッド(笑)。俺、牛丼を20個買っていったこともあるよ。そしたら次の日、たまたま食堂のおかまが壊れてご飯が炊けなかったらしく、俺が買っていった牛丼が大活躍しちゃった(笑)。
下手くそと言われてもいい、馬の強さを見せられれば
四位 あ、安藤さん、きた!
横山典 安藤さん、遅いよ?。
安藤勝 ごめん、ごめん。遅くなりました。
四位 じゃあここで切り替えて、桜花賞、オークスの話をしましょうか。
横山典 安藤さん、桜花賞はどういう気持ちで乗ったんですか? 後方からの競馬でしたけど。
安藤勝 馬が強ければ勝つと思って乗ったよ。後ろから行こうとも思ってなかったし、もう出たまま。いつもそうだけど、なんの確証もないんだよ。
四位 俺、桜花賞のときは、安藤さんいつもより出していくのかなって、ちょっと思ってたんですけど。
安藤勝 いやいや、ホントに出たままなんだよ。馬の力を信用して乗るしかない。中途半端にいくのもどうかな、と思うしね。
四位 でも、桜花賞はもっと楽勝すると思ってませんでした? 俺の馬(レッドディザイア)が予想以上に頑張った感じでしょ?
安藤勝 そうそう。四位くんの馬は思ったより強かった。
四位 ブエナビスタの能力を確信したのはいつですか?
安藤勝 新馬から。3着だったけど、すごい脚を使ったからね。でも最初の何百メートルは全然走る気がなくて。競馬を知らないもんだから、ゴールを過ぎてから本気で走ってたよ。ダイワスカーレットもすごい馬だったけど、この馬も相当だなと思った。
四位 やっぱりデビュー戦から感じるものがあったんですね。
安藤勝 でも、桜花賞もオークスも、間違いなく四位くんがいちばんいい競馬をしてる。オークスは外が伸びる馬場じゃなかったから、4コーナーで俺、迷ったしね。だから、ホントにたまたま勝てただけで。
横山典 安藤さん、マジメに乗ってよ?(笑)。
安藤勝 アハハハ(笑)。でも、マジメに乗ってるから迷うんだよ。
横山典 たしかにそうですね。
安藤勝 俺はね、みんなが?あの馬、強いな?って思ってくれればそれでいい。俺が下手クソだっていわれてもいいの。あの馬は強いな、って思われることが大事。
横山典 安藤さんにはかなわないね。
安藤勝 だって、騎手っていつも思ったとおりには乗れないでしょ。
四位 ほとんどがそうですよね。
安藤勝 だから俺は、馬の強さを見せてやりたいって思うだけでさ。
横山典 気を付けろ! この言葉に引っ掛かっちゃダメだ(笑)。だって安藤さん、ダービーも全然緊張しないとかいうんだぜ。そんなわけないって。
安藤勝 変な意味じゃなくて、ダービーだって大したことないんだよ(笑)。
四位 安藤さんにかかったらそうなるんですよね。
横山典 いやいや。俺、今年勝たせてもらったけど、大したことないなんてウソだよ!
四位 でも、キングカメハメハ(04年)のとき、緊張しなかったっていうのはウソですよね?
安藤勝 緊張? ぜ?んぜんしなかったよ(笑)。だって勝つと思ってたもん。NHKマイルCを勝ったあと、ああ、これはダービーも絶対に勝つなって思った。
横山典 俺のダービーとは、また全然違うよね。
四位 安藤さんの考え方はすごい。もう達観してる。
横山典 すごいっていうか、おかしいよ(笑)。
ファン、そして馬のために、俺たちが楽しんで乗ること
安藤勝 俺はもともと地方の騎手で、本来なら中央のG?なんて縁がないんだよ。でも、中央のG?を勝ちたい! と思って中央にきた。だからダービーがどうこうじゃなく、とにかく中央のG?ならなんでも勝ちたかっただけ。ダービーを勝たせてもらったのはすごいことだと思うけど、中央の騎手はずーっとそこにいるから執着があるわけで。俺はいつもいい意味で?たかが競馬やろ?って思って乗ってる。
四位 (同席している一同に)安藤さんの?たかが競馬?っていう言葉は、すご?く深いんですよ。
横山典 そうそう。これを読んだ人に、その言葉をそのまま受け取られたら困る。俺もよくいうんだよ、?趣味で馬に乗ってる?って。こういういい方はお客さんには申しわけないけど、実際、俺たちが楽しんで乗らないと、お客さんにもいいレースは見せられないんだよ。
安藤勝 俺たちが緊張したら、何よりも馬に障るからね。
四位 そうですね。騎手が意識した時点で馬には伝わりますからね。だから、いい意味で?たかが競馬?と思って乗ることが、結局は馬にとってプラスに働くっていうことなんですよね。でも、これがなかなか簡単にできることじゃないので…。
横山典 ファンには伝わりづらいかもしれないけどね…。
四位 うん。でもやっぱり安藤さんは、腹のくくり方がすごいですよね。
安藤勝 全然すごくないよ。騎手を辞めたら、俺のことなんてだ?れも知らない。ただのおっさんやで(笑)。
四位 も?、安藤さんはホントにおもしろい(笑)。凱旋門賞にしたって、最初は……
安藤勝 「ホントに俺でいいのかな」って思ったね。でも今は、行くからには頑張ろうと思ってるよ。光栄なことだからね。
横山典 その前に札幌記念でしょ。安藤さん、52キロ乗れるの(笑)?
安藤勝 アハハハ(笑)。大丈夫だよ。凱旋門賞の前にね、札幌の重い芝を走らせるのもいいかなって思ってるよ。
無事是名馬のごとく?? ずっと元気で乗っていたい
横山典 今日、ホントに思ったけど、安藤さんみたいな人を天才っていうんですよね。天才とバカは紙一重…ユタカもヘンだし(笑)。
安藤勝 馬乗りはバカのほうがいい。ノリちゃんだってバカやろ(笑)?
四位 中央に移籍したばかりのころは、考え方も今とは違いましたよね?
安藤勝 さっきもいったけど、俺はとにかくG?を勝ちたかったの。あの大歓声のなか、先頭でゴールを切りたいと思った。だからビリーヴで高松宮記念を勝ったとき、涙が出るほどうれしかったよ。俺の夢だったからね。
横山典 俺にとって夢って何だろ? ダービーを勝ったけど…、夢っていわれると何もないな。
四位 俺はジャパンCを勝ちたい。というより、ディープスカイでもう一度、G?を勝ちたい。
横山典 そうか、そうだよな。俺は岡部(幸雄元騎手)さんや安藤さんのように、無事是名馬じゃないけど、ずっと元気で馬に乗り続けることかな。事故もたくさん見てきたし、自分が気を付けていてもどうしようもないことがある世界だから。
四位 俺も長く乗っていたい。若い子もどんどん台頭してきてますしね。
横山典 ジョッキーもそろそろ入れ替えの時期。俺たちがデビューしたころには、郷原(洋行)さん、柴田政人さん、岡部さんたちがいて…だいたい20年サイクルだと思うんだよ。だから、安藤さん、四位、俺たちもがんばろ!
安藤勝 はい(笑)。でも俺の夢はね、犬を連れてあちこち旅行すること。
四位 引退したあとですか?
安藤勝 そうそう。俺、もう50やろ。人生そんなに長くないから、いかに自分の好きなことをやって、いろんなものを見るか。それが大事だと思ってる。俺はね、寅さんになりたい(笑)。
横山典 も?、安藤さんにはかなわねぇよ…(苦笑)。
安藤勝 あとはやっぱり笠松を盛り上げたいっていう気持ちはある。
横山典 そうだ安藤さん、笠松で調教師になれば? 俺、アンカツ厩舎に乗りに行くよ!
安藤勝 やめてよノリちゃん! その気になっちゃうよ(笑)。でも俺は今、すごく幸せだな?。
横山典 幸せすぎるよ?!
四位 いやいや、飲みすぎですって…。
▼【関連リンク】
★月刊「UMAJIN」最新号の詳細はコチラ↓
http://shop.uma-jin.jp/
★月刊「UMAJIN」最新号のオンラインショップはコチラ↓
楽天ブックス→ http://books.rakuten.co.jp/rb/12755573/
セブンネット→ http://www.7netshopping.jp/magazine/detail/-/accd/1200944030/
Fujisan→ http://www.fujisan.co.jp/product/1281680751/