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2018年06月30日(土)
愛ダービー(GI)芝12F
- 【レース格】★★★★
- 【総賞金】150万ユーロ
- 【開催競馬場】カラ
- 【勝馬】ラトローブ
- 【騎手】D.オブライエン
- 【トレーナー】J.オブライエン
見解
【結果詳報】
6月30日、アイルランドのカラ競馬場で行われた芝12FのGI・愛ダービーは、ドナカ・オブライエン騎手騎乗の5番人気ラトローブ(Latrobe)がゴール前の接戦を制して優勝。初勝利を挙げた前走からの連勝で初のGI制覇を果たした。
3年ぶりに英ダービー馬が不在という中で行われた今年の愛ダービー。そのため、人気は唯一のGI馬で、英ダービー4着からの巻き返しを目指すサクソンウォリアー(Saxon Warrior)に集中し、同馬が単勝2倍の1番人気となった。そして、2番人気は英ダービーで2着だったディーエックスビー(Dee Ex Bee)。以下、オールドペルシアン(Old Persian)、デラノルーズヴェルト(Delano Roosevelt)と続いた。
レースは、ややバラけたスタートになったものの大きな出遅れはなく、最内枠のディーエックスビーがハナを伺うが、押して行ったロストロポヴィッチ(Rostropovich)がこれを制して先手を奪うと、ディーエックスビーは抑えて先団へ。代わって2番手にはラトローブが上がり、サクソンウォリアーとディーエックスビーがその後ろにつける。一方、もう1頭の人気馬オールドペルシアンは中団よりもやや後方、馬群の外からレースを進めた。
その後も道中はほとんど隊列に動きがなく、ロストロポヴィッチが1馬身ほどリードを保って逃げていたが、最終コーナーに差しかかったところでラトローブが進出を開始し、ロストロポヴィッチに並びかける。さらに、その直後にいたサクソンウォリアーも進路を外に取り、既にスパートに入っていたディーエックスビーとともに前の2頭に迫っていった。
最後の直線では、外から伸びたサクソンウォリアーが逃げるロストロポヴィッチとラトローブの競り合いに加わる。その後方ではデラノルーズヴェルトやオールドペルシアンなどが懸命に脚を伸ばすものの、前との差はなかなか詰まらず、残り1ハロンの時点で勝負の行方は3頭に。3頭の争いはゴールまで続いたが、最後の最後でもうひと伸びを見せたラトローブがこの混戦を制した。
半馬身差の2着は必死に逃げ粘ったロストロポヴィッチ。ゴール前で脚が鈍ったサクソンウォリアーは、そこからクビ差遅れの3着に終わった。また、そのほかの人気馬は、ディーエックスビーが7着、オールドペルシアンが6着に敗れている。
勝ったラトローブは、父Camelot、母Question Times(母の父Shamardal)という血統の3歳牡馬。同馬は昨年10月のデビュー以降、2走前のGIIIガリニュールSなど3戦続けて2着に敗れていたが、今回と同条件で行われた前走の未勝利戦を6馬身半差で勝利して待望の初勝利を挙げていた。なお、同馬の父Camelotは2012年のこのレースの勝ち馬。祖父Montjeuも1999年に愛ダービーを制しているため、親子3代での愛ダービー制覇となった。通算成績は5戦2勝。
【展望】
現地時間6月30日、アイルランドのカラ競馬場では芝12FのGI・愛ダービーが行われる。
愛2000ギニー、愛セントレジャーとともにアイルランドの牡馬3冠を形成するこのレース。しかし、愛セントレジャーが古馬混合競走となることから、同国内には3冠という概念がほとんどなく、愛ダービーは英仏のダービーを戦ってきた馬たちの初対戦、もしくは再戦の舞台になることが多い。
レースが創設されたのは1866年で、当時からカラ競馬場が舞台となっている。距離は、創設当初こそ14F6ヤードだったが、1869年に9ヤード延長されており、その後、1972年に現在の12Fに短縮されると、以降は同じ距離で行われている。長い歴史の中で日本調教馬が出走したことは一度もないが、日本で種牡馬となったジェネラスやコマンダーインチーフ、アラムシャー、ケープブランコらが過去にこのレースを制しているほか、ニジンスキー、シャーガー、モンジュー、ガリレオといった欧州競馬史に名を残す名馬が歴代の勝ち馬に名を連ねる。また、バランシーンやサルサビルといった英オークス馬が勝利したこともある。
次に、カラ競馬場についてだが、同競馬場があるのはアイルランドの首都ダブリンから南西に車で50分ほどのところにあるキルデアという町。アイルランドの中でも歴史のある町として知られ、現代のアイルランド人の多くが英語を話すのに対し、キルデアでは伝統的なアイリッシュゲール語を母語とする人も多い。そんな地にあるカラ競馬場は、アイルランド競馬発祥の地と言われるほど歴史が古く、競馬場が議会によって正式に競馬場やトレーニング施設として認められたのは1868年のことだが、記録上では1727年に最初のレースが行われている。また、それ以前にもレースが行われていたという記述も残されている。
コースは右回りで、イギリスのエプソムダウンズ競馬場のような蹄鉄型のコースのほかに“インナーコース”と呼ばれる周回コースや直線コースがある。このうち蹄鉄型のコースは、大回りをする“プレートコース”と内回りの“ダービーコース”に分かれており、今回の愛ダービーは後者を使って行われる。このコースは、スタート直後から緩やかなカーブがプレートコースとの合流地点まで続き、合流後は最終コーナーへ向けて下り坂となる。最後の直線は約600m。コースそのものが平原にラチを置いただけとも言えるようなものであることから、いたるところに起伏があり、パワーとスタミナを要求される。ただ、それも前述したエプソムダウンズ競馬場に比べるとマシで、それほど神経質になる必要はないだろう。
さて、ここからは出走予定馬12頭の中から注目馬を紹介したい。例年、このレースは英ダービーからの転戦組が中心になることが多く、昨年も勝ち馬カプリなど上位3頭を英ダービー組が占めた。そういう意味では今年も英ダービー出走馬、特に上位勢に注目が集まるが、優勝したマサーは来週行われる芝10FのGI・エクリプスSに向かうことが決まり不在。さらに、同3着のロアリングライオンや同5着のハザプールも出走を見送ったため、上位勢で出走するのはディーエックスビー(Dee Ex Bee)とサクソンウォリアー(Saxon Warrior)の2頭だけになった。まずはこの2頭から紹介したい。
ディーエックスビー(Dee Ex Bee)は、英ダービーで1馬身半差の2着。出走12頭中9番人気という低評価だったが、直線ではいったん前に出られたロアリングライオンをゴール前で差し返す根性を見せた。その前走を含めて近4走はいずれも2、3着と勝ち切れておらず、やや勝ち味に遅いタイプのようにも思えるが、前回の内容を見るとやはり無視できない。豊富なスタミナを持っていることは既に実証済みなので、それをフルに活かすことができればチャンスもありそうだ。
一方、英ダービーで断然の1番人気に支持されながらも4着に終わったサクソンウォリアー(Saxon Warrior)にとっては、これがリベンジの舞台になる。前走は初めて経験する12Fの距離と起伏の激しいコースに苦しんだ印象だが、スタート直後にバランスを崩すなど、いくつかの不利があったのも事実。これらのアクシデントがなければ勝っていたとは言わないが、力をフルに発揮できたとは言い難いだけに改めて見直したい。再度の12F戦ということでスタミナ面がカギになりそうだが、前述したようにカラはエプソムダウンズに比べると起伏が激しくなく、サクソンウォリアーでもこなせる可能性が高い。実際、ブックメーカーの前売りオッズではサクソンウォリアーがディーエックスビーを差し置いて圧倒的な人気を集めているほどである。期待された英国3冠の夢は潰えてしまったが、管理するエイダン・オブライエン調教師の評価は依然として高いだけに、秋の凱旋門賞をはじめとするビッグレースに向けて実力をアピールしたいところだろう。
英ダービーからは上記2頭以外にもデラノルーズヴェルト(Delano Roosevelt)、ザペンタゴン(The Pentagon)、ナイトトゥビホールド(Knight To Behold)が出走する。このうち、デラノルーズヴェルトとザペンタゴンは、サクソンウォリアーと同じオブライエン厩舎の馬で、オブライエン調教師は仏ダービー9着のロストロポヴィッチ(Rostropovich)も含めると4頭出しになる。実績的には3頭に大きな差はなさそうだが、デラノルーズヴェルトとロストロポヴィッチは、ダービー後にロイヤルアスコットのGII・キングエドワード7世Sに出走しており、今回は中7日での臨戦。コンディション面が気になるところだ。
また、ナイトトゥビホールドは5番人気だった英ダービーで11着に敗戦。案外な結果に終ったが、2走前に下したキューガーデンズは英ダービー9着後、GII・クイーンズヴァーズを4馬身半差で楽勝している。今回は鞍上がランフランコ・デットーリ騎手に替わるということもあって不気味な存在である。
他路線からやってくる馬たちでは、キングエドワード7世S(アスコット、GII、芝11F211yd)でデラノルーズヴェルトとロストロポヴィッチらを破って優勝したオールドペルシアン(Old Persian)が有力視されている。同馬はオーナーがゴドルフィンで、管理するのはチャールズ・アップルビー調教師。つまり、英ダービー馬マサーと同じで、マサーがエクリプスSに回ったことなどもあって、急遽ここに出走することになった。前述したようにキングエドワード7世Sからは中7日というローテーションになることから状態面がカギになりそうだが、初の重賞挑戦、初の12Fなど初物尽くしだった前走を危なげなく勝っている点は高く評価できる。今年好調のゴドルフィンにあって、自身も今季4戦3勝2着1回と抜群の安定感を誇っているだけに、一気のGI制覇も考えられる。
そのほかでおもしろそうなのは、今回と同条件で行われた前走の一般戦を6馬身半差で圧勝したラトローブ(Latrobe)か。同馬は、昨年10月のデビューから3戦続けて2着に敗れていたが、12Fに距離が伸びた前回のレースで、それまでの鬱憤を晴らすかのような走りを見せた。今回は相手が一気に強化されるが、同じ舞台ということを考えると気になる1頭だ。
プラチナムウォリアー(Platinum Warrior)は、前走時にそのラトローブを破った馬。ただ、当時は10F戦で、自身は今回が初の12F戦になる。血統的にはガリレオを父にもつだけに、距離に対する不安はなさそうだが、2走前のGIII・ダービートライアルSでデラノルーズヴェルトやザペンタゴンに遅れをとっているところを見ると、やや力不足か。2戦2勝のバンドゥア(Bandua)も気になる1頭だが、距離経験や相手関係を考えると上位争いは厳しいのではないだろうか。
※記載している出走予定馬については6月29日(午後0時)時点でのものであり、今後、出走取消等により出走しない場合もありますので予めご了承ください。
