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2018年07月07日(土)
エクリプスS(GI)芝9F209y
- 【レース格】★★★
- 【総賞金】50万ポンド
- 【開催競馬場】サンダウンパーク
- 【勝馬】ロアリングライオン
- 【騎手】O.マーフィー
- 【トレーナー】J.ゴスデン
見解
【結果詳報】
7日(日本時間同日深夜)、イギリスのサンダウンパーク競馬場で行われた芝9F209ヤード(約2000m)のGIエクリプスSは、オイサン・マーフィー騎手が騎乗した1番人気ロアリングライオン(Roaring Lion)が2番人気サクソンウォリアー(Saxon Warrior)との追い比べを制して優勝。初のGI制覇を果たした。
8頭が出走を予定していた今年のエクリプスS。中でも注目はGI英ダービーで1、3、4着となったマサー(Masar)、ロアリングライオン、サクソンウォリアーの再戦だったが、レース前日になってマサーが脚部不安のため回避することとなり、最終的に7頭立てで行われた。人気はロアリングライオンが2.75倍で1番人気、1週前に行われた愛ダービー3着から中6日での出走だったサクソンウォリアーは、3.25倍の2番人気だった。
レースは全馬が揃ったスタートを切るが、そこからダッシュがつかなかったクリフスオブモハー(Cliffs Of Moher)は最後方からの競馬に。一方、先行争いはフォレストレンジャー(Forest Ranger)がハナを伺うも、押していったホークビル(Hawkbill)がこれに並びかけ、スタートして2Fほどのところで先頭に立つ。フォレストレンジャーはポジションを下げて1馬身半差の2番手を追走、さらに1馬身半離れた3番手にサクソンウォリアーがつけ、ロアリングライオンは3馬身後方の5番手からレースを進めた。
その後も隊列に大きな動きはなく、淡々とした流れでレースが進んでいたが、勝負どころに入ると後方の各馬が徐々に前との距離を縮めはじめ、先頭から最後方までの差は5馬身ほどに。最終コーナーでは内を通ったクリフスオブモハーがロアリングライオンをかわしたため、ロアリングライオンは最後方にポジションを下げて直線に入った。
最後の直線では、内で逃げ込みを図るホークビルに後続が襲い掛かる。楽な手応えのまま上がってきたサクソンウォリアーは、鞍上のドナカ・オブライエン騎手が追い出しを開始するとしっかりと反応し、直線半ばでホークビルを捉えて先頭に立ったものの、大外から追い込んできたロアリングライオンが前に迫る。残り1Fを切ってからはこの2頭の一騎打ちとなり、両者が馬体を併せての追い比べを繰り広げるが、最後は僅かに前に出たロアリングライオンがサクソンウォリアーを抑えてゴール。ゴール前でロアリングライオンが内へ斜行したため入線後に審議が行われたが、降着処分にはならず、ロアリングライオンの勝利が確定した。
サクソンウォリアーは厳しいローテーションに加え、ゴール前での不利もあったがクビ差の2着に健闘。2着から2馬身半差の3着にはクリフスオブモハーが入った。
勝ったロアリングライオンは、父Kitten’s Joy、母Vionnet(母の父Street Sense)という血統の3歳牡馬。2歳時の昨年はデビュー3連勝でGIIロイヤルロッジSを制覇、GIレーシングポストトロフィーでもサクソンウォリアーの2着に入っていたが、今年はここまで4戦してGIIダンテSの1勝のみ。距離が長かった前走の英ダービーではゴール前で脚色が鈍って3着に敗れており、今回は距離を短縮しての一戦だった。通算成績は9戦5勝。
【展望】
現地時間7月7日、イギリスのサンダウンパーク競馬場では芝9F209ヤードのGI・エクリプスSが行われる。
数あるイギリスの中距離GI戦の中で、3歳勢と古馬勢が初めて顔を合わせることになるこのレース。1886年の創設当時はイギリスで最も高額な賞金を誇る競走として始まっており、第1次世界大戦と第2次世界大戦の影響による中止期間はあったものの、サンダウンパーク競馬場(1946年のみアスコット競馬場で代替開催)最大のビッグレースとして行われてきた。また、創設当初は10Fだった距離は、1991年に現在の距離に変更されているが、9F209ヤードという表記はBHA(英国競馬統括機構)が2016年に行った再計測によって判明したもので、それまでは10F7ヤードとされていた。
過去、このレースに日本調教馬が出走したことはないものの、歴代の優勝馬にはダンシングブレーヴやオペラハウス、ファルブラヴなど、引退後に日本で種牡馬になった馬が多数いる。そのほかにも、長年欧州リーディングサイアーの座に君臨したサドラーズウェルズや今春亡くなったジャイアンツコーズウェイ、英ダービーからの連勝で勝利したシーザスターズ、ゴールデンホーンといった名馬が勝ち馬として名を連ねているが、日本でもお馴染みのライアン・ムーア騎手が2007年に騎乗したノットナウケイトは、ただ1頭馬群から大きく離れた外ラチ沿いを通って勝利したことで、当時大きな話題となった。
次に、舞台となる競馬場についてだが、サンダウンパーク競馬場があるのはロンドンから南西に車で45分程のところにあるサリー州のイーシャーという町。サリー州といえば、豊かな中流階級以上の人が住む住宅街のイメージが強く、ハリーポッターの自宅がある場所として世界的に知られているが、それ以外にもシャーロックホームズシリーズの短編小説『ウィスタリア荘』はイーシャーの町を舞台に描かれるなど、小説の舞台として頻繁に登場している。そんな町にあるサンダウンパーク競馬場は1875年に開場したコースで、それまで広大な丘や草原に走路を設定することが当たり前だったヨーロッパでは初めてとなるパークコース(競馬専用施設=競馬場)としてオープンした。コースは、1周約2650mの右回りの周回コースと周回コースを貫く形で設置された約1000mの直線コースがあり、エクリプスSは周回コースを使って行われる。スタート地点があるのは向正面の左手奥にあるポケットで、各馬はそこから向こう正面を通って3コーナーに向かう。スタート後は直線が続くことやレース自体が多頭数になりにくいことを考えると枠による有利不利はないだろう。
さて、ここからは出走予定馬について触れていきたい。前述したように、このレースは多頭数になることがほとんどなく、近年はヒト桁頭数でのレースが続いている。今年もその例に漏れず8頭立てとなったため、やや寂しくなってしまったものの、冒頭に記したように3歳勢と古馬勢が初めて顔を合わせるということで注目度は高い。特に、今年は5頭出走する3歳馬に有力馬が多いことから上位独占も考えられる状況で、ここでもその3歳勢から紹介していく。
マサー(Masar)は今年の英ダービー(エプソムダウンズ、GI、芝12F6yd)優勝馬。昨年の段階でGIII・ソラリオS(サンダウン、芝7F)優勝、GIジャンリュックラガルデール賞3着という成績を残していた同馬だが、大きく注目されるようになったのは今年に入ってからで、ドバイ帰りとなった4月のGIII・クレイヴンS(ニューマーケット、芝8F)を9馬身差で圧勝したことによってクラシックの有力候補に数えられるようになった。しかし、1番人気を背負って出走したGI・英2000ギニーでは、日本生まれのディープインパクト産駒サクソンウォリアーに敗れ3着。その結果、前走の英ダービーでは3頭横並びの6番人気まで評価を落としたが、レースでは中団追走から直線で鮮やかに伸びて初のGIタイトルを掴み取った。今回はその英ダービー以来のレースで、愛ダービーではなくこちらに出走することになったのは距離適性や種牡馬入り後の価値などを考慮したため。陣営としては、勝てる可能性が高いレースを選択したという部分もあるはずで、後述する古馬勢がそれほど強力ではないことを考えると負けられないところだろう。直近の英ダービー馬では2015年のゴールデンホーンがこのレースに出走して勝利しているが、それに続くことができるだろうか。
一方、マサーにとって最大のライバルになりそうなのは、英ダービー3着のロアリングライオン(Roaring Lion)と同レースでは4着だった日本生まれのディープインパクト産駒サクソンウォリアー(Saxon Warrior)。ロアリングライオンは今年に入って4戦1勝、対マサーという点ではクレイヴンS、英2000ギニー、英ダービーと3戦全てで先着を許しているが、10.5FのGII・ダンテS(ヨーク、芝10F56yd)を4馬身半差で楽勝しているように能力は3歳トップクラスと言っても過言ではない。距離が長かった英ダービーではゴール前で2着馬に差し返されたものの、直線での脚色は目立っていただけに、距離短縮で巻き返してくる可能性はある。
また、急遽参戦が決まったサクソンウォリアーは、先週行われた愛ダービーから中6日での競馬。その前走は、勝ち馬から半馬身+クビ差遅れの3着ということで、4馬身半差の4着に終わった2走前の英ダービーに比べると内容は良かったが、やはり距離の壁は否めないものだった。実際、陣営もレース後には距離短縮を示唆しており、そういった意味ではこの距離はプラスに働くはずである。今回は主戦のムーア騎手がアメリカで騎乗するため、ドナカ・オブライエン騎手に乗り替わりとなるが、同騎手とは5月の英2000ギニー(ニューマーケット、GI、芝8F)を制すなど過去2戦2勝と好相性を誇る。コンディションが気になるところではあるが、改めて期待したい。
出走メンバー中、唯一の牝馬となるハッピリー(Happily)はサクソンウォリアーと同じエイダン・オブライエン厩舎の所属馬で、昨年のジャンリュックラガルデール賞(シャンティイ、GI、芝1600m)ではマサーや後の仏2000ギニー馬オルメドを破っている。今年の入ってからは英1000ギニー3着、愛1000ギニー3着、仏オークス4着とGIで3戦続けて善戦止まりの競馬が続いており、成長力に疑問があるものの、3ポンド(約1.5kg)の斤量差を活かすことができれば食い込みがあっても不思議ではない。
もう1頭の3歳馬レイモンドタスク(Raymond Tusk)は、今年4月にデビューしたばかりの馬で、これが3戦目にして初の重賞挑戦。デビュー勝ち直後の一般戦で3馬身差の2着に敗れているところを見ると、さすがに世代トップクラスが揃ったここでは厳しいと思われるが、キャリアの浅い馬だけに未知の部分も少なくない。ここが今後を占う試金石になりそうだ。
そして、これらの3歳勢を迎え撃つ古馬勢。3頭の中では今春のドバイシーマクラシック(メイダン、GI、芝2410m)の勝ち馬で、2年前のこのレースを3歳の身で制しているホークビル(Hawkbill)が大将格と言えそうだが、ドバイからの帰国後の成績が芳しくない。3着だった前走のGI・プリンスオブウェールズSにしても、6頭立ての5着に終わった2走前のGI・コロネーションCに比べると前進があったが、勝ったポエッツワードには10馬身以上、2着のクラックスマンにも8馬身差をつけられた。主戦を務めるウィリアム・ビュイック騎手が同馬主のマサーに騎乗するということから見ても分かるように、ここはあくまでも2番手という扱いであり、大きな期待はかけづらい。
昨年の英ダービー2着馬クリフスオブモハー(Cliffs Of Moher)は、今年に入ってGII・ムーアズブリッジS(ネース、芝10F)優勝、GI・タタソールズゴールドCで2着と上昇気流に乗ったかのように見えたが、その後はプリンスオブウェールズS4着、GII・ハードウィックS3着と今ひとつ。昨年のこのレースでは道中の不利がありながら4着に入ったが、やはりトップクラス相手では力が一枚落ちる印象だ。
残る1頭フォレストレンジャー(Forest Ranger)は、今回が2度目のGI挑戦。昨年までは主にマイル路線を歩んでいた馬で、GI・セントジェームズパレスSで5着に敗れるなど重賞では未勝利だった。しかし、去勢を行って迎えた今シーズンは、初戦のGIII・アールオブセフトンS(ニューマーケット、芝9F)で重賞初制覇を飾ると、続くGII・ハクスリーS(チェスター、芝10.5F)でも優勝して重賞を連勝。勢いに乗ってGIの舞台に戻ってきた。古馬勢の中では前述の2頭がやや頭打ちになっている感があるだけに、むしろ勢いのある同馬に期待が寄せられそうだが、斤量面なども考慮するとやはり3歳勢優位と思われる。古馬劣勢の下馬評に反して意地を見せることができるだろうか。
※記載している出走予定馬については7月6日(午後0時)時点でのものであり、今後、出走取消等により出走しない場合もありますので予めご了承ください。
