競馬サロン

血統サイエンティスト ドクトル井上
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≪今週の動画≫
皆さま、お元気ですか。血統サイエンティストのドクトル井上です。
クイーンSはコガネノソラとボンドガールの3歳馬ワンツーに。YouTubeの動画でも推奨していたように、コガネノソラの好走には何も驚くことはないのですが、ダイワメジャー牝馬のボンドガールがあそこまで頑張ったのには素直に脱帽。4角の隊列を見て一瞬「モロタで!」と思っただけに、距離ロスなく捌いた鞍上の手腕に感服です。白帽が馬群を割ってきたのを見てフリーズしました……。
しかしながら「ダイワメジャー牝馬を芝中距離重賞で買わない運動」は今後も継続するつもり。期待値が低いのは事実なので懲りずに粛々と続けていきましょう。
さてこの記事では、週末の重賞・レパードステークス(GIII、新潟ダート1800m)の展望をば。ごゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
■過去のレース傾向
コーナーが鋭角で先行馬が息を入れやすいコース設定の新潟ダート。差し・追い込み馬は、4角付近の勝負どころで外に振られるロスを背負う形になる。そのため他の場と比べても逃げ先行馬が強く、レパードSでもそれは同様。まずはポジション性能を重視したい。
▼レパードSの脚質別成績
逃げ・先行【10-12-9-37】
勝率14.7% 連対率32.4% 複勝率45.6%
差し・追込【5-3-6-138】
勝率3.3% 連対率5.3% 複勝率9.2%
※数字はいずれも過去15回分
血統的には父エーピーインディ系が【3-2-2-20】で勝率11.1%、複勝率25.9%をマーク。単勝回収率も138%なのでアタマの妙味がありそう。同系が当日逃げ・先行策を選んだ場合、【3-2-1-4】で勝率30.0%、複勝率60.0%なのでさらに期待度はアップする。
ストームキャット系も【1-1-2-8】で複勝率33.3%。こちらも位置を取れる馬が強く、先行力を見せた履歴のある馬を狙いたい。
反対にやや苦しいのがキングマンボ系を除く父ミスタープロスペクター系。【0-1-1-25】で複勝率7.4%に留まる。また、【2-1-3-19】で複勝率24.0%と一見調子の良さそうな父キングマンボ系も、好走したのは全て偉大なキングカメハメハの産駒。
孫の代に入ってからは18年3人気9着アドマイヤビクター(父ルーラーシップ)、21年2人気15着ルコルセール(父ロードカナロア)など、人気に推されて走り切れない結果が続いている。全体としてミスプロ系は下げる発想を持っておきたい。
■各馬の個別検討
▼ミッキーファイト
父はドレフォン、母はスペシャルウィーク産駒のスペシャルグルーヴ。半兄にチャンピオンズCを制したジュンライトボルトや中京記念を制したグルーヴィットがいる。芝向きのエアグルーヴ牝系にあって、このソニックグルーヴの枝はフレンチデピュティの影響か、ダートでも頑張れるタイプが出るのが特徴だ。
個人的に父ドレフォンと母父スペシャルウィークの組み合わせはお気に入り。その心はドレフォンの父父テールオブザキャットに入るタルヤーとスペシャルウィークに入るセントクレスピンの兄弟を介して、牝馬ネオクラシーのクロスが発生するから。
英ダービー&“キングジョージ”を制した兄タルヤー、凱旋門賞を制した弟セントクレスピンを送り出した名牝のクロスとあって、淡泊なアメリカン血統のドレフォンに欧州的な底力を付与する効果に期待できる。
また、ドレフォンとエアグルーヴ牝系の組み合わせは芝とダートでリステッド競走を制したデシエルトと同じパターン。
ドレフォンに入るタルヤー、パーシャンメイドとエアグルーヴに入るガーサント、レディアンジェラ、オンリーフォアライフを介して、名牝プリティポリーの増強が図られる。これもドレフォンに欧州的な底力を付与する工夫と言えよう。
エアグルーヴ牝系ではないものの、皐月賞馬ジオグリフも、曾祖母アンデスレディーが「ノーザンテースト×ガーサント」なので、同じような発想と言える。
余談になるが、軽いスピードが売りの系統かつこっそりタルヤーが入る種牡馬には、アリシドンやオリオールのような「ハイペリオン&ドナテッロ血脈」やトニービンが入る牝馬を組み合わせて、欧州的なスタミナを増強してあげると良駒が出やすい印象。一部で大注目の種牡馬・バンブーエールの活躍馬はほとんどがこのパターンだ(と思っている)。スピードにはスタミナ、スタミナにはスピード。配合はバランス良くが基本というわけだ。
個人的にはドレフォン産駒として満点をあげたいくらいの配合で、実際に全姉(ピュアグルーヴ)が某一口馬主クラブで募集された際、喜び勇んで出資申し込みをしたのを思い出す。抽選落ちたけど。
前走のユニコーンSでしっかりと砂を被る経験をできたのも、キャリアが浅い同馬にとって貴重な経験になっただろう。後の交流重賞勝ち馬であるブルーサンを好タイムであっさり下した2戦目を見ても力があるのは明らかだし、位置を取れるのもこの舞台ではプラスになる。
▼ソニックスター
父は現代の北米でもっとも偉大な種牡馬イントゥミスチーフ、母の半兄にはアメリカの芝GIを3勝したビーチパトロールがいる。
確かに母父はスプリンターのスペイツタウンではあるが、母母父クワイエットアメリカンは1800mでも結果を残した馬だし、父イントゥミスチーフの距離適性は万能なので、ソニックスターにとって1800mの距離が長いということはないだろう。ベストとは言わないが守備範囲と見る。
この馬の場合は、これまで勝負どころで外を回す競馬しかしていない点がどう出るか。ここまでの4戦を振り返ると、いずれも道中で外に持ち出しており、最内枠からのスタートだった初戦も、3角で外に開いてブン回す競馬だった。
フルゲート想定のレパードSで同じようなレースをするとかなりロスが大きくなるため、そこをどうカバーするかだろう。
外枠向きなのはスペイツタウンという感じ。枠の並びと隊列のイメージで印の上げ下げを考えたいところだ。
▼ジーサイクロン
父は昨年産駒がデビューしたサンダースノー。18年&19年のドバイワールドCを連覇した実績に加え、フランスで芝GIを2勝した二刀流ホースだ。サドラーズウェルズとヌレイエフの3/4同血クロスをゴリゴリ重ねた形になっているのが血統面での特徴。
サンダースノーはフランスの2歳GI勝ちがあるうえ、これだけクロスがうるさければ早熟種牡馬に出ても不思議ないが、実際はかなりの晩成傾向にある。
■サンダースノー産駒の年齢別成績
2歳【4-5-2-88】
勝率4.5% 連対率9.1% 複勝率11.1%
3歳【19-16-11-181】
勝率8.4% 連対率15.4% 複勝率20.3%
3歳に入ってからグンと成績を上げ、成績指標はほぼダブルスコア。またダートの1800mをめっぽう得意にしていて、勝利数の大半をこの条件で稼いでいるうえ単複回収率も高水準だ。
これを踏まえると、ジーサイクロンが3歳春以降ダートの1800mで3連勝したのは、典型的な「サンダースノー曲線」という印象がある。
母ジーベロニカはJRAでの勝利こそなかったものの、朝日チャレンジCを制したミッキードリームなどが出たスプリングコート一門の出身。牝祖はクリアアンバーなので、アンバーシャダイやサクラバクシンオーなどと同牝系にあたる。
ジーベロニカと同じ「キンカメ×スプリングコート一門」の組み合わせは、キンカメの祖母パイロットバードとトニービンを介するホーンビームのクロスが発生するため、ミッキードリームやオリオンザジャパンのように、上がりのかかる直線をズドンと追い込む馬に出がち。
ジーサイクロンのレースぶりを見ると、この特徴は良く出ているよう。コーナーの機動力はそれほどでもない代わりに、直線に入ってからも最後まで止まらず差し切るレースで勝ってきた。
そういう意味では、直線に坂があって最後は前の馬が歩くような条件の方が合っているように思う。ミッキードリームが中京記念で皆歩いたところで差してきた、みたいな。
新潟の鋭角な4コーナーだといったんそこで置いてかれるはずなので、そのロスを直線でどこまでリカバリーできるか。ハヤヤッコが勝った2019年やカフジオクタゴンが勝った2022年のようにレースの上がり3Fが38秒0以上かかるようなタフ決着を想定するのであれば評価を上げたい。
▼アラレタバシル
母のクサナギノツルギは単純なノーザンテースト3×3に加えて、デュランダルの祖母スコッチプリンセスからアリシドンを引いているため、ノーザンテーストの祖母レディアンジェラの要素をさらに強化する形になっている。
さらに父ケープブランコもアリシドン=アクロポリスの全兄弟クロスを抱えているため、より一層ノーザンテースト的なパワーを強化する形になっているのが特徴。
地味ながらなかなか凝った配合で個人的には評価が高いのだが、ノーザンテーストのパワーに寄った配合なので、直線に急坂があるコースの方がより良さが出そうな感も。
実際に伏竜Sでは後のケンタッキーダービー5着馬・テーオーパスワードにアタマ差まで迫ったわけだし。その観点でいくとラストの上がりがかかるレースになれば出番があるかも? というイメージ。
この馬もジーサイクロンと同じくタフ決着希望のタイプと整理しておきたいところ。ズブズブ決着想定ならジーサイクロンとの馬連ワイドを買って眺めておくのも手になろう。
▼ハビレ
羽田盃4着、東京ダービー5着と交流重賞で崩れず走っている。血統表を見るとスウィートトゥースという牝馬に遡る牝系の出身。ブルリーの3×3というクロスが特徴のこの牝馬は、「GI6勝の実績を誇る一方で三冠全部2着」のアリダーを送り出した。
そこにリアファンやらサドラーズウェルズやらを重ねてナシュア≒ナンターラ的なパワーを増強しているところにヘニーヒューズで締める形なので、ダート向きになるのはそうですわなという感じ。
マクリ血統ブルリーの影響が強い感じもあるので捲れるコースの方がベターだろう。東京だと勝ち星がないのはそのあたりが影響したように思う。
この馬の場合は、位置を取れないのが気になる要素。地方馬の交じる交流重賞でも文字どおり中団からの競馬だったし、一見3番手から抜け出したように見える1勝クラスも実は6頭立てでレースを見るとこちらも中団のポジションだった。
確かにタフ展開なら差し馬が届くレパードSとはいえ、アメリカンな軽いスピードが武器のストームキャット系なので、差しが届く上がりのかかるレースになってもそれはそれでどうなのよ? という感じも。
このレースで好走したストームキャット系は基本的に位置を取った馬ばかりで、中団からの差しだと間に合わない傾向。差して好走したのは祖母が南関東の名牝ロジータという血統背景を持つトイガーくらいで、クールミラボーやドンフォルティスといった人気サイドも差して凡走してきた。
ハビレの牝系はシークエストにしろエバニスタにしろトモトモリバーにしろ基本は短距離向き。中距離かつ直線もそこそこ長いレパードSを差して好走する牝系には見えづらい。「交流GIで掲示板」という文字列で人気に推されるようなら、むしろ評価を下げるくらいの感覚で良いのでは。
▼ブルーサン
父はモーニン、牝系からはダート短距離の重賞で活躍したリュウノユキナ、TCK女王盃勝ち馬サウンドザビーチ、東海S3着のスマハマなどが出る。
逃げないとどうしようもないタイプの馬で、これまで好走したレースはいずれもハナを切ったとき。ダートで逃げて初めて馬券を外したのが前走のプロキオンSだったわけだが、息を入れる箇所がないラップになったところで、実力馬ヤマニンウルスにマクリ潰され失速という結果。悲観することはない。
そもそも3歳の時点で古馬相手にダート重賞で好走するというのは途轍もなく高いハードル。通用しなくて当たり前なのだ。世代限定重賞なら巻き返せるはず。
逃げた馬が強いのがこのレパードSだし、ハナにこだわってくれそうな時点でかなりの推し材料だ。
ストームキャット×ミスプロ×コジーンのモーニンは、配合のイメージどおり直線が平坦なコースの産駒成績が良好。阪神、中山、中京では芝ダート問わずまだ白星がない一方で、京都コースでは既に4勝を挙げている。直線が平坦な新潟コースはモーニン的に歓迎と見る。
一見押せ押せのローテーションではあるが、実戦を使って調子を上げる川村厩舎の管理馬なので心配は要らないだろう。
鳳雛Sでは逃げて2着だったが、相手はかなり奥行きのありそうなカシマエスパーダ。それを相手にこちらが1キロ重い斤量を背負ってあの着差なら十分な内容。レパードSでそこそこ人気しそうなミッキークレストは突き放しているわけだし。
前走の大敗で人気を落とすようならシメたもの。一発の期待も。
▼ウィンドフォール
父はパイロ、母ノットオーソリティは門別と南関東で活躍し、ロジータ記念などの重賞を制した実績がある。
エーピーインディ系パイロの産駒はレパードSで【1-1-1-4】、複勝率42.9%をマーク。また好走したパイロ産駒とウィンドフォールには「母父非サンデー系」という共通点がある。
新馬戦のパフォーマンスが大変優秀で、負けた馬から勝ち上がりが5頭以上出ているうえ、7着だったジーサイクロンは、前述のとおり2勝クラスも突破済み。向こうが1角で不利を受けたとはいえ、番手追走から上がり最速で面倒を見たウィンドフォールのパフォーマンスレベルも相当に高いと見ている。
月曜時点では出走が難しそうな情勢ではあるものの、枠に滑り込めれば素質はここでも通用する。実績は劣るが「超惑星」としての期待を込めて取り上げておこう。
■まとめ
最上位評価はミッキーファイト。「ドレフォン産駒としてやるべきことをやりました」という配合なので当然高く評価したい。
一発の期待は逃げ馬ブルーサン、出走叶えばパイロ産駒の超惑星ウィンドフォールも押さえておきたい。
枠と週末の馬場コンディションを見つつ、最終結論は土曜日の夜に公開いたしますので、そちらもどうぞお楽しみに。
<プロフィール>
“血統サイエンティスト”ドクトル井上
在野の血統研究家。旧知のオーナーを中心として、セリや配合のコンサルティング業務を請負中。
好きな種牡馬はダノンレジェンドとハービンジャー。苦手な種牡馬はMore Than Ready。
凱旋門賞馬Ace Impactの血統表は芸術品なので、ルーヴル美術館に収蔵されるべきとわりと本気で考える三十路の牡馬。
2024/07/29 21:00
【レパードステークス2024 血統展望】最注目は「ドレフォン産駒として満点をあげたい配合」の素質馬


≪今週の動画≫
皆さま、お元気ですか。血統サイエンティストのドクトル井上です。
クイーンSはコガネノソラとボンドガールの3歳馬ワンツーに。YouTubeの動画でも推奨していたように、コガネノソラの好走には何も驚くことはないのですが、ダイワメジャー牝馬のボンドガールがあそこまで頑張ったのには素直に脱帽。4角の隊列を見て一瞬「モロタで!」と思っただけに、距離ロスなく捌いた鞍上の手腕に感服です。白帽が馬群を割ってきたのを見てフリーズしました……。
しかしながら「ダイワメジャー牝馬を芝中距離重賞で買わない運動」は今後も継続するつもり。期待値が低いのは事実なので懲りずに粛々と続けていきましょう。
さてこの記事では、週末の重賞・レパードステークス(GIII、新潟ダート1800m)の展望をば。ごゆるりとお付き合いいただけますと幸いです。
■過去のレース傾向
コーナーが鋭角で先行馬が息を入れやすいコース設定の新潟ダート。差し・追い込み馬は、4角付近の勝負どころで外に振られるロスを背負う形になる。そのため他の場と比べても逃げ先行馬が強く、レパードSでもそれは同様。まずはポジション性能を重視したい。
▼レパードSの脚質別成績
逃げ・先行【10-12-9-37】
勝率14.7% 連対率32.4% 複勝率45.6%
差し・追込【5-3-6-138】
勝率3.3% 連対率5.3% 複勝率9.2%
※数字はいずれも過去15回分
血統的には父エーピーインディ系が【3-2-2-20】で勝率11.1%、複勝率25.9%をマーク。単勝回収率も138%なのでアタマの妙味がありそう。同系が当日逃げ・先行策を選んだ場合、【3-2-1-4】で勝率30.0%、複勝率60.0%なのでさらに期待度はアップする。
ストームキャット系も【1-1-2-8】で複勝率33.3%。こちらも位置を取れる馬が強く、先行力を見せた履歴のある馬を狙いたい。
反対にやや苦しいのがキングマンボ系を除く父ミスタープロスペクター系。【0-1-1-25】で複勝率7.4%に留まる。また、【2-1-3-19】で複勝率24.0%と一見調子の良さそうな父キングマンボ系も、好走したのは全て偉大なキングカメハメハの産駒。
孫の代に入ってからは18年3人気9着アドマイヤビクター(父ルーラーシップ)、21年2人気15着ルコルセール(父ロードカナロア)など、人気に推されて走り切れない結果が続いている。全体としてミスプロ系は下げる発想を持っておきたい。
■各馬の個別検討
▼ミッキーファイト
父はドレフォン、母はスペシャルウィーク産駒のスペシャルグルーヴ。半兄にチャンピオンズCを制したジュンライトボルトや中京記念を制したグルーヴィットがいる。芝向きのエアグルーヴ牝系にあって、このソニックグルーヴの枝はフレンチデピュティの影響か、ダートでも頑張れるタイプが出るのが特徴だ。
個人的に父ドレフォンと母父スペシャルウィークの組み合わせはお気に入り。その心はドレフォンの父父テールオブザキャットに入るタルヤーとスペシャルウィークに入るセントクレスピンの兄弟を介して、牝馬ネオクラシーのクロスが発生するから。
英ダービー&“キングジョージ”を制した兄タルヤー、凱旋門賞を制した弟セントクレスピンを送り出した名牝のクロスとあって、淡泊なアメリカン血統のドレフォンに欧州的な底力を付与する効果に期待できる。
また、ドレフォンとエアグルーヴ牝系の組み合わせは芝とダートでリステッド競走を制したデシエルトと同じパターン。
ドレフォンに入るタルヤー、パーシャンメイドとエアグルーヴに入るガーサント、レディアンジェラ、オンリーフォアライフを介して、名牝プリティポリーの増強が図られる。これもドレフォンに欧州的な底力を付与する工夫と言えよう。
エアグルーヴ牝系ではないものの、皐月賞馬ジオグリフも、曾祖母アンデスレディーが「ノーザンテースト×ガーサント」なので、同じような発想と言える。
余談になるが、軽いスピードが売りの系統かつこっそりタルヤーが入る種牡馬には、アリシドンやオリオールのような「ハイペリオン&ドナテッロ血脈」やトニービンが入る牝馬を組み合わせて、欧州的なスタミナを増強してあげると良駒が出やすい印象。一部で大注目の種牡馬・バンブーエールの活躍馬はほとんどがこのパターンだ(と思っている)。スピードにはスタミナ、スタミナにはスピード。配合はバランス良くが基本というわけだ。
個人的にはドレフォン産駒として満点をあげたいくらいの配合で、実際に全姉(ピュアグルーヴ)が某一口馬主クラブで募集された際、喜び勇んで出資申し込みをしたのを思い出す。抽選落ちたけど。
前走のユニコーンSでしっかりと砂を被る経験をできたのも、キャリアが浅い同馬にとって貴重な経験になっただろう。後の交流重賞勝ち馬であるブルーサンを好タイムであっさり下した2戦目を見ても力があるのは明らかだし、位置を取れるのもこの舞台ではプラスになる。
▼ソニックスター
父は現代の北米でもっとも偉大な種牡馬イントゥミスチーフ、母の半兄にはアメリカの芝GIを3勝したビーチパトロールがいる。
確かに母父はスプリンターのスペイツタウンではあるが、母母父クワイエットアメリカンは1800mでも結果を残した馬だし、父イントゥミスチーフの距離適性は万能なので、ソニックスターにとって1800mの距離が長いということはないだろう。ベストとは言わないが守備範囲と見る。
この馬の場合は、これまで勝負どころで外を回す競馬しかしていない点がどう出るか。ここまでの4戦を振り返ると、いずれも道中で外に持ち出しており、最内枠からのスタートだった初戦も、3角で外に開いてブン回す競馬だった。
フルゲート想定のレパードSで同じようなレースをするとかなりロスが大きくなるため、そこをどうカバーするかだろう。
外枠向きなのはスペイツタウンという感じ。枠の並びと隊列のイメージで印の上げ下げを考えたいところだ。
▼ジーサイクロン
父は昨年産駒がデビューしたサンダースノー。18年&19年のドバイワールドCを連覇した実績に加え、フランスで芝GIを2勝した二刀流ホースだ。サドラーズウェルズとヌレイエフの3/4同血クロスをゴリゴリ重ねた形になっているのが血統面での特徴。
サンダースノーはフランスの2歳GI勝ちがあるうえ、これだけクロスがうるさければ早熟種牡馬に出ても不思議ないが、実際はかなりの晩成傾向にある。
■サンダースノー産駒の年齢別成績
2歳【4-5-2-88】
勝率4.5% 連対率9.1% 複勝率11.1%
3歳【19-16-11-181】
勝率8.4% 連対率15.4% 複勝率20.3%
3歳に入ってからグンと成績を上げ、成績指標はほぼダブルスコア。またダートの1800mをめっぽう得意にしていて、勝利数の大半をこの条件で稼いでいるうえ単複回収率も高水準だ。
これを踏まえると、ジーサイクロンが3歳春以降ダートの1800mで3連勝したのは、典型的な「サンダースノー曲線」という印象がある。
母ジーベロニカはJRAでの勝利こそなかったものの、朝日チャレンジCを制したミッキードリームなどが出たスプリングコート一門の出身。牝祖はクリアアンバーなので、アンバーシャダイやサクラバクシンオーなどと同牝系にあたる。
ジーベロニカと同じ「キンカメ×スプリングコート一門」の組み合わせは、キンカメの祖母パイロットバードとトニービンを介するホーンビームのクロスが発生するため、ミッキードリームやオリオンザジャパンのように、上がりのかかる直線をズドンと追い込む馬に出がち。
ジーサイクロンのレースぶりを見ると、この特徴は良く出ているよう。コーナーの機動力はそれほどでもない代わりに、直線に入ってからも最後まで止まらず差し切るレースで勝ってきた。
そういう意味では、直線に坂があって最後は前の馬が歩くような条件の方が合っているように思う。ミッキードリームが中京記念で皆歩いたところで差してきた、みたいな。
新潟の鋭角な4コーナーだといったんそこで置いてかれるはずなので、そのロスを直線でどこまでリカバリーできるか。ハヤヤッコが勝った2019年やカフジオクタゴンが勝った2022年のようにレースの上がり3Fが38秒0以上かかるようなタフ決着を想定するのであれば評価を上げたい。
▼アラレタバシル
母のクサナギノツルギは単純なノーザンテースト3×3に加えて、デュランダルの祖母スコッチプリンセスからアリシドンを引いているため、ノーザンテーストの祖母レディアンジェラの要素をさらに強化する形になっている。
さらに父ケープブランコもアリシドン=アクロポリスの全兄弟クロスを抱えているため、より一層ノーザンテースト的なパワーを強化する形になっているのが特徴。
地味ながらなかなか凝った配合で個人的には評価が高いのだが、ノーザンテーストのパワーに寄った配合なので、直線に急坂があるコースの方がより良さが出そうな感も。
実際に伏竜Sでは後のケンタッキーダービー5着馬・テーオーパスワードにアタマ差まで迫ったわけだし。その観点でいくとラストの上がりがかかるレースになれば出番があるかも? というイメージ。
この馬もジーサイクロンと同じくタフ決着希望のタイプと整理しておきたいところ。ズブズブ決着想定ならジーサイクロンとの馬連ワイドを買って眺めておくのも手になろう。
▼ハビレ
羽田盃4着、東京ダービー5着と交流重賞で崩れず走っている。血統表を見るとスウィートトゥースという牝馬に遡る牝系の出身。ブルリーの3×3というクロスが特徴のこの牝馬は、「GI6勝の実績を誇る一方で三冠全部2着」のアリダーを送り出した。
そこにリアファンやらサドラーズウェルズやらを重ねてナシュア≒ナンターラ的なパワーを増強しているところにヘニーヒューズで締める形なので、ダート向きになるのはそうですわなという感じ。
マクリ血統ブルリーの影響が強い感じもあるので捲れるコースの方がベターだろう。東京だと勝ち星がないのはそのあたりが影響したように思う。
この馬の場合は、位置を取れないのが気になる要素。地方馬の交じる交流重賞でも文字どおり中団からの競馬だったし、一見3番手から抜け出したように見える1勝クラスも実は6頭立てでレースを見るとこちらも中団のポジションだった。
確かにタフ展開なら差し馬が届くレパードSとはいえ、アメリカンな軽いスピードが武器のストームキャット系なので、差しが届く上がりのかかるレースになってもそれはそれでどうなのよ? という感じも。
このレースで好走したストームキャット系は基本的に位置を取った馬ばかりで、中団からの差しだと間に合わない傾向。差して好走したのは祖母が南関東の名牝ロジータという血統背景を持つトイガーくらいで、クールミラボーやドンフォルティスといった人気サイドも差して凡走してきた。
ハビレの牝系はシークエストにしろエバニスタにしろトモトモリバーにしろ基本は短距離向き。中距離かつ直線もそこそこ長いレパードSを差して好走する牝系には見えづらい。「交流GIで掲示板」という文字列で人気に推されるようなら、むしろ評価を下げるくらいの感覚で良いのでは。
▼ブルーサン
父はモーニン、牝系からはダート短距離の重賞で活躍したリュウノユキナ、TCK女王盃勝ち馬サウンドザビーチ、東海S3着のスマハマなどが出る。
逃げないとどうしようもないタイプの馬で、これまで好走したレースはいずれもハナを切ったとき。ダートで逃げて初めて馬券を外したのが前走のプロキオンSだったわけだが、息を入れる箇所がないラップになったところで、実力馬ヤマニンウルスにマクリ潰され失速という結果。悲観することはない。
そもそも3歳の時点で古馬相手にダート重賞で好走するというのは途轍もなく高いハードル。通用しなくて当たり前なのだ。世代限定重賞なら巻き返せるはず。
逃げた馬が強いのがこのレパードSだし、ハナにこだわってくれそうな時点でかなりの推し材料だ。
ストームキャット×ミスプロ×コジーンのモーニンは、配合のイメージどおり直線が平坦なコースの産駒成績が良好。阪神、中山、中京では芝ダート問わずまだ白星がない一方で、京都コースでは既に4勝を挙げている。直線が平坦な新潟コースはモーニン的に歓迎と見る。
一見押せ押せのローテーションではあるが、実戦を使って調子を上げる川村厩舎の管理馬なので心配は要らないだろう。
鳳雛Sでは逃げて2着だったが、相手はかなり奥行きのありそうなカシマエスパーダ。それを相手にこちらが1キロ重い斤量を背負ってあの着差なら十分な内容。レパードSでそこそこ人気しそうなミッキークレストは突き放しているわけだし。
前走の大敗で人気を落とすようならシメたもの。一発の期待も。
▼ウィンドフォール
父はパイロ、母ノットオーソリティは門別と南関東で活躍し、ロジータ記念などの重賞を制した実績がある。
エーピーインディ系パイロの産駒はレパードSで【1-1-1-4】、複勝率42.9%をマーク。また好走したパイロ産駒とウィンドフォールには「母父非サンデー系」という共通点がある。
新馬戦のパフォーマンスが大変優秀で、負けた馬から勝ち上がりが5頭以上出ているうえ、7着だったジーサイクロンは、前述のとおり2勝クラスも突破済み。向こうが1角で不利を受けたとはいえ、番手追走から上がり最速で面倒を見たウィンドフォールのパフォーマンスレベルも相当に高いと見ている。
月曜時点では出走が難しそうな情勢ではあるものの、枠に滑り込めれば素質はここでも通用する。実績は劣るが「超惑星」としての期待を込めて取り上げておこう。
■まとめ
最上位評価はミッキーファイト。「ドレフォン産駒としてやるべきことをやりました」という配合なので当然高く評価したい。
一発の期待は逃げ馬ブルーサン、出走叶えばパイロ産駒の超惑星ウィンドフォールも押さえておきたい。
枠と週末の馬場コンディションを見つつ、最終結論は土曜日の夜に公開いたしますので、そちらもどうぞお楽しみに。
<プロフィール>
“血統サイエンティスト”ドクトル井上
在野の血統研究家。旧知のオーナーを中心として、セリや配合のコンサルティング業務を請負中。
好きな種牡馬はダノンレジェンドとハービンジャー。苦手な種牡馬はMore Than Ready。
凱旋門賞馬Ace Impactの血統表は芸術品なので、ルーヴル美術館に収蔵されるべきとわりと本気で考える三十路の牡馬。

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