2011/04/19 【月刊UMAJIN編集部】インタビュー・コラム「「独占!」【月刊UMAJIN編集部】インタビューコラム」
田中博康/田中博康の武者修行に密着 Vol.3
武者修行のためフランスへ渡った、JRAジョッキー・田中博康。
“何かを掴む”ため、海の向こうへ出ることを決心した彼のもとを、ターフライター・平松さとしが訪ねました。
何もかもが刺激になる
4月17日、田中博康はロンシャン競馬場のすぐ近くにあるオートイユ競馬場へ出向いた。障害専門の競馬場であるオートイユを、この日、田中が訪れた理由。それはフランスの競馬について勉強したいという貪欲さに加え、もう一つあった。
この日のメーンレースは“日本フランス連帯競走と銘打たれていた。入場者数×5ユーロのお金を義援金として、先の東日本大震災の被災者に寄付するというのだ。
日本に馴染みの深い騎手であるC・ルメールやD・ボニヤらと共に食事をした田中は、その後、ルメールにいざなわれて生垣などの障害物を実際にみてまわり、色々な競馬の形があることに心底感動した模様。
「障害のあまりの大きさに驚かされました。これを飛ぶ騎手の精神力も凄いと思う。本当に何もかもが刺激になるし、勉強になります」と目を輝かせて語っていた。
パリ市内で食事をして宿舎のあるシャンティイに戻ると、夜の10時を回っていた。一日仕事の競馬場往復も、若い田中にとっては貴重な財産になったようだ。
モチベーションが喚起される環境
寮はベッドと机が一つずつあるだけ。
「決して快適とは言えない環境」と苦笑しつつも、そういう環境だからこそモチベーションが喚起されるのでは?と話すと「その通りだと思います」
近くのスーパーや大型ショッピングモールでまずは生活するに困らない必要最低限のものを揃えた。ベッドに用意されていたのは一枚の毛布だけだったので、布団も買った。冷蔵庫も買った。ハンガーや衣文掛けも揃えた。そんな行動にこの地で長く頑張ろうという姿勢がみえた。
午後の厩舎作業は言われていなかったが、「折角フランスまで来ているのだから……」と自ら厩舎に出向いた。それでも余った時間には近くの森の中をランニング。汗を流し、体を作った。
「久しぶりに何頭もの調教を連日行なったせいか、ランニングして道に迷ったせいか、筋肉痛になっちゃいました」と笑いながら言う。
競馬に乗れる日が来るまで、かの地での田中の生活は、まだまだ続いて行く。
目を輝かせ勉強の毎日
「鹿が出てきてびっくりしました」
調教中の出来事を、田中博康は楽しそうにそう語った。
フランスでも有数の馬の街・シャンティイ。広大な敷地には競馬場の他にいくつもの調教場が点在している。その中で、田中が毎朝、調教をつけているのがエーグルという地区。何か所かある調教場の中でも最も大きなコースである。
芝コースやダートのコースもあるエーグルは、厩舎からそこへ向かうまでが正真正銘の森。木漏れ日を浴び、鳥のさえずりを聞き、調教コースへ向かう。
「その間に鹿がいたんです」
鹿もいれば兎もいる。
「まるで牧場みたいな環境です。これもこちらの馬たちが大人しい要因の一つなんでしょうね。本当に勉強になります」
日本とは異なる調教法だけが勉強ではない。毎日々々、田中は目を輝かせ、身を持って勉強している。
できることならレースに乗りたい
「メラニーには大分、お世話になっています。ジャスティーヌやアレクシスとは随分と言葉を交わすようになりました」
田中博康はそう言ってニコリと笑ってみせた。アレクシスは同じM・デルザングル厩舎で働く見習い騎手だ。彼を始め、英語を話せるスタッフとは日一にち、コミュニケーションをとれるようになってきた。
18日からは調教開始時刻が微妙に早くなり、5時半には宿舎を出て、厩舎へ向かう。まだ暗い空には月が浮かぶ。その下で、その日、自らが調教をつける予定の馬をチェックし、鞍を用意する。手順を教えてくれたのは最初だけ。後は誰もが皆、自分の仕事を黙々とこなすだけ。田中を手伝ってくれる人はいない。
それでも、他のスタッフに遅れることなく、仕事をこなし、皆と同じ時間には馬場に出る。
「調教のやり方もコースも大分、わかってきました」
フランス入りして一週間。まだ競馬での依頼はないが、今月中には乗れそうな話も出てきた。
「レースにはそう簡単に乗れないことは承知しています。でも、やっぱり出来ることなら乗りたいですよね」
こう言って騎手の顔をみせる。毎朝、黙々と厩舎作業をして、調教に跨る。そんな姿勢をみていると、一日も早く田中の願いがかなってほしいと思わされる。
今回の私のレポートはこれで終わりになる。しかし、田中のフランスでの生活はまだ始まったばかり。
「年内は帰国しないつもりで頑張ります!」
私もいずれまたフランスを訪れるつもりでいる。その時にはひと皮むけた彼が出迎えてくれることだろう。自ら不便な環境に出向き、一所懸命に頑張る彼をみていると、必ずやそうだと信じられる。
(文中敬称略・了)
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