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コラム

2011/08/05  【月刊UMAJIN編集部】インタビュー・コラム「「独占!」【月刊UMAJIN編集部】インタビューコラム」

後藤浩輝/後藤の語! 第18回「かつての相棒からの言葉」

好評連載「後藤の語!」、第18回となる今回はなんと、アメリカからの寄稿だ。出国のこと、現地での競馬のこと、そしてそこへ至るまでの自身の想いを独占告白。後藤騎手のコラムが読めるのは「UMAJIN」だけ!!

今自分のなかに新たな目標が芽生えてきている



 Hello,Everyone! 日本のみんな?! 元気でやっているかぁ?い!? 

 ご存知かと思うが、俺は今アメリカのニュージャージー州にいる。俺の大好きなボン・ジョヴィの生まれ故郷であり、N.Yからほど近いビーチ沿いの素敵な町だ。こちらへ来て、早1カ月近くが経とうとしている。

 出発前に中山開催リーディングとなり、自分を売り込むにはとてもいい宣伝効果があった。それに2007年の関東リーディング獲得、今年のオークス優勝…、本当にいいタイミングで、再びアメリカの土を踏むことができた。

 実に15年ぶり…。22歳のころ、実績も自信もないままフロリダへ渡った。当時の俺の目的、目標は「日本で活躍し、トップジョッキーになる」ことで、アメリカの砂が俺を磨き、強くしてくれた。その力を持って俺は帰国し、ここまで登ってこれたのだ。

 俺をここまで育て上げてくれたのはアメリカ競馬。それはゆるぎない事実。もっと通い続ければ良かったと思う自分もいるが、15年かけて頑張ってきたからこそ、今こうして自信を持って、ここで戦っていられるのだと思える自分もいる。そして、今自分のなかに芽生えている目標は「世界で活躍できるジョッキーになる」ことだ。

 時計を戻そう。7月12日の火曜日に俺は日本を飛び立った。飛行機は基本、土・日・月は休日扱いになるらしく、運賃が通常よりも高い。なので、安い火曜日に出発した。セコいと思われるかもしれないが、2カ月間ほぼ収入なし。滞在期間の経費もウン100万かかるので、少しでも節約したかったのだ…。

 そんなわけで到着したアメリカ。N.Yから1時間半かけて、ニュージャージー州に着き、早速、次の日から調教を開始した。今回お世話になる調教師のW.A.Ward(ウェスリー・アレン・ワード)と出会ったのは確か13年前。師がスプリンターズSに管理馬のメンズイクスクルーシブを出走させるために来日した際、たまたまアメリカ帰りの俺を気に入ってくれて、その馬の調教を頼まれたのがきっかけだった。

 それから昨年まで一度もコンタクトを取っていなかったのだが、昨年のJCダートに彼の馬が出走するかもしれないということで、JRAを通じて彼のほうから連絡をしてきてくれた。それからトントン拍子で、この遠征が実現していったのだ。

 すべてが15年前とは違っていた。エージェントや生活に必要なことをしっかりサポートしてくれ、本当に何も心配することなく、競馬に集中できる環境が最初から整っていた。調教師のウェスリーは世界中を飛び回る生活を送っており、そこからはエージェントのボブが家族同然の扱いでケアをしてくれた。

 フロリダにいた当初は、厩舎内をただただ歩き回り、「仕事をくれませんか?」と伺うだけの日々だった。「本当に競馬に乗れる日が来るのだろうか?」というところから、やっと3カ月で初勝利。それが俺のジョッキーとしての本当の意味でのスタートだった。

俺は研修にきたんじゃない!



 その後、日本の国際化が進み、俺も海外の顔見知りが増えた。もちろんフロリダで一緒に乗っていた仲間がいることで、今回は周りからの受け入れもスンナリだった。会話というのは本当に大切で、ちょっとでも話が通じないことがわかると、まったく相手にしてもらえなくなるので、英会話は必須である。

 俺は比較的話せるほうだが、ずいぶんと間が開いてしまったぶん、忘れてしまっている部分もあり、今は頑張ってたくさんの人と話すようにしている。ここで俺なりに持っているポイントは「まずは下ネタで“つかみ”を取る」ことだ。これはもう男子なら世界共通、年齢を問わずにすぐに打ち解けることができる。

 アメリカ競馬に従事しているほとんどの人がスパニッシュ系で、当然、俺はスペイン語は挨拶くらいしかできない。すると周りの人たちはおもしろがって、エッチな言葉や下品な言葉ばかりを教えてくる。それを百も承知で、俺は必死で覚える。時には厩舎の壁にカタカナで書いておく。それを朝の挨拶がわりに、厩舎やジョッキールームで言うと、みんな大ウケするのだ。

 スペイン語で「ホット」というのは「オカマ」の意味。「ゴット?! ホット?!」と言って、みんなで笑いあっている。バカにされているのかもしれないが、暗い奴と思われるよりはマシだ。だから自分で言うのもなんだが、けっこう人気者である。

 こちらでの本拠地はモンマスパーク競馬場。当たり前のようにそこで初騎乗を迎えるものだと思っていたが、ウェスリーから告げられたのはカナダのウッドバイン競馬場、そして次の日はシカゴのアーリントン競馬場での騎乗だった。

「これは本当に世界を股にかけて…ってやつだな」と優越感に浸りながらも不安でいっぱいのまま飛行機に飛び乗った。日帰り、2日続けて違う国で乗ることも初めてで、しかもそれが今回のデビュー戦だったこともあり、俺は緊張しまくっていた…。しかし、その不安や緊張がバレないように立ち振る舞う俺…。「15年前の俺とは違うんだ」と。

 JRAが俺の遠征を公式に発表したとき、勝手に渡航目的を「研修」と出した。以前の俺なら「ハイ、そうです」と認めていただろう。しかし、今回はすぐにJRAに抗議して訂正してもらった。それぐらい気合いを入れて、戦いにきているのだ。「研修できました」なんて奴を軽々と乗せてくれるほど、この国は甘くない。

 皆、その日を生きるためのお金を稼ぐことに必死で戦っているのに、そんなハンパな気持ちでぶつかって勝てるはずがない。その自分のなかで燃やした意志の強さが通じたのか、2日目のアーリントンパーク競馬場で完璧なレースをして勝つことができた。その後も、順調にわずか2週間で3勝を挙げることができている。

かつての相棒の言葉を胸に俺はアメリカで戦い抜く!



 そんな素晴らしいスタートを切れたアメリカ遠征だが、勝利したことよりもうれしいことがあった。それは15年前、俺を必死でサポートし、一緒に頑張り続けてくれたエージェントのロジャーが、ウッドバインでのデビューの日、わざわざフロリダから競馬場に電話をかけてきてくれたのだ。

 今はエージェント業を辞め、電話会社で働いている彼がなぜ俺がアメリカで騎乗していることに気づいたのか不思議でならなかった。今回フロリダへ行くことができないとわかっていた俺は、彼が残念がると思い、何も言わずにきていた。もちろん、エージェントを辞めたことも知っていたので、きっと気づくこともないだろうと…。しかし、俺の考えは甘かった。

 彼がどれだけ競馬が好きで、俺のことを好きだったかを思い出した。まだ日本でも無名だった俺を毎日のように「お前はベストジョッキーだ!」、「絶対に日本でトップになれるんだ!」と励まし続けてくれた。その言葉、気持ちが俺をここまで押し上げてくれたのは間違いない。

 当時の彼は新人エージェントで黒人。俺は何の実績もないアジア人。ひどい差別を受けながらも、それにめげることなく頑張り続けた。

「今は誰も俺たちを見てくれないけど、いつかみんなから勝手に俺たちのところに寄ってくるようになるさ…」と笑い飛ばしながら厩舎を回り続けた。

 俺は帰国するまでの半年で7勝することができた。騎乗数は158鞍にもなった。俺は彼にもらった自信を胸に、日本でトップを目指した。本当は毎年のようにフロリダに行きたい気持ちを持っていた。しかし、心のどこかで一人前、いやトップジョッキーになるまでは戻れないというプレッシャーがストップをかけていた。それがこの15年間だったのだ。

 これが早かったのか、遅かったのかはわからない。でも、再び俺はこのアメリカの地を、自信を持って踏みしめている。この15年間、ロジャーはちょくちょく日本の競馬をチェックして俺を見てくれていたらしい。ずっと俺のアメリカ再挑戦を待っていてくれたのだ。

 シカゴで初勝利を挙げ、本拠地ニュージャージーでも初勝利したその日、彼からメールが届いた。「15yrs later…」というタイトルでモンマスパークのウイナーズサークルの馬上で、“バンザイ”をして喜ぶ俺の写真、そしてこの言葉が添えられていた。

「Remember! All eyes are on you」

ロジャーとウェスリーとボブと、そして、未来へ…


 なかなか泣かせることをしてくれるじゃないかロジャー…。俺はこの言葉をもっと成長させるために、もう一度アメリカで戦い抜こうと心に誓った。そしてこれからはロジャーだけではない。調教師のウェスリー、現在のエージェントであるボブと、同じ約束をして残りのアメリカでの日々、そして未来へ向けて頑張っていこうと思っている。

2011年8月1日 後藤浩輝


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