2012/02/28 齋藤 俊介「名馬列伝」
【名馬列伝】王者の間隙を突き爆発 メジロライアン/90年弥生賞
1990年。第27回弥生賞は、不良馬場での開催となった。
1人気には朝日杯、共同通信杯を逃げ切ってきたアイネスフウジンと中野栄治騎手。長距離種牡馬と目されていたシーホークの仔でもあり、距離延長はむしろ有利。代表産駒の1頭であるスダホークも重馬場を苦にしないタイプ(かつ弥生賞勝ち馬)であり、3歳(現2歳)王者が一度使い、勝ってきての弥生賞という経緯もあわせると、単1.9倍のバックボーンは揺るぎないものと言えた。
12.8 - 11.3 - 12.9
と主導権をとったアイネスフウジンが1コーナーを曲がっていく。ニチドウサンダーやカムイフジらが追走するが、スピードの絶対値が違いすぎるのは一目瞭然だった。通常、重馬場だと馬が下を気にして余計に折り合いがついたりするものだが、不良馬場でもアイネスフウジンには関係がなかったのだ。
追いすがろうとする先行馬により意識をむけたアイネスフウジンは、お構いなしにハミを噛んで加速した。注視していたスタンド前を抜けたことで騎手にも若干の安心感、微小な油断があったのかもしれない。いずれにしても、
12.7 - 11.7 - 12.1
と急な加速を見せた王様は、脱落して遠ざかる後方馬の息遣いに満足し、自らが落ち着くまでに3F近い距離を必要としてしまう。
12.6 - 12.8 - 12.6
とイーブンペースで直線へ。中野騎手は終始馬場のいいところを選んで走り、内の悪い場所を通れば差せないという戦術的な条件を整えていく。そして、馬上から中野騎手はチラリと後方を一瞥。勢いよく外を回って上がってきたツルマルミマタオー・河内洋騎手をみつけ、これを相手として直線に挑むことを決断する。
7人気と人気薄だったツルマルミマタオーと河内騎手だったが、橋口弘次郎調教師も含め陣営はこの馬こそ関西の1番馬という自負をもってこのレースに挑んできていた。野路菊S、もみじSを連勝。阪神3歳S(G1)こそ1人気もコガネタイフウの3着に終わったが、決して力負けではない。
父グリーングラス、母ミヤノマツ(母の父イエローゴッド)。
相馬眼に優れる橋口調教師に見いだされた襟裳の原石は、距離が延び、荒れ馬場といったクラシカルな競馬になるほどその血統に息づく野武士の強さを発揮する。河内騎手は3コーナーから捲りあげていく中で、馬場の悪いインにもう一頭の人気馬を封じ込めていくことにも成功していた。2人気のメジロライアンと横山典弘騎手である。
そのメジロライアンが行き場をなくし、1馬身前後のロスを余儀なくされる中で、前を行くアイネスフウジンとツルマルミマタオーの叩き合いが開始された。
さらに、この時。
外の叩きあいの内側で極悪馬場にもがき、ひしめいている先行馬を壁にしながら最内を抜け出してきたのが5人気、柴田政人騎手とホワイトストーン。
誰も通らなくなった最内のわずかに回復してきた踏みしろを使ってホワイトストーンは一気にだしぬけをかますことに成功したのだ。死角から隠れるように抜けだし、あとはままよと柴田政騎手が馬を押していく。
気づいた外の2頭もピッチをあげるが、アイネスフウジンに手応えほどの伸びがない。
しかし、これも必然。スピードは超抜だが、追って味のあるタイプではないだけに、こういう戦いには根っからむいていなかったのだ。しかも暴走した3Fはアイネスフウジンから着実にスタミナを奪っていたのだから、より脚は止まっていく。
そこに、間隙が生まれた。その瞬間を待ち続けた横山典騎手とメジロライアンは、その間を捉え、一気に突き抜けていく。この当時の横山典騎手はまだ減量マークのある、いわゆる“アンチャン”。経験豊かなトップジョッキーである河内騎手を相手に蓋をされた部分はやむをえないところもあった。
しかし、ただのアンチャンではない。メジロライアンが6戦してあげた3勝は、全て横山典騎手の手によるものだ。牧場時代から激しい気性で知られるメジロライアンをコントロールしたことは、天与の資質あってこそと言えるだろう。加えて、騎手として高いプライドを持ち、自らを証明する意欲にあふれている。
ラスト100mは、メジロライアンと横山典騎手による独壇場へと変わっていったのだ。
その爆発力に場内からはどよめきが上がり、2着ツルマルミマタオーに1/2馬身という着差という以上のインパクトを人々に与えることとなった。
「俺の馬が一番強い」「俺はこんなもんじゃない」という言葉を形に変え、この勝利は横山典騎手とメジロライアンをナンバーワンのクラシック候補として位置づけることになる。
この人馬もまた、運命的な出会いであったと言えるだろうか。
メジロライアンと横山典騎手の真の戦いがここに幕を開けたのだ。
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