2012/01/31 齋藤 俊介「名馬列伝」
【名馬列伝】ペリエの手綱で無傷3連勝 ロイヤルタッチ/96年きさらぎ賞
きさらぎ賞の歴史においても、間違いなく指折りの戦いとなったのがこの年だろう。
1996年・きさらぎ賞。
この世代はサンデー4強と呼ばれ、朝日杯王者のバブルガムフェローにラジオたんぱ杯で1?3着を占めたロイヤルタッチ、イシノサンデー、ダンスインザダークの4頭がクラシックを席巻すると見られていた。
この中からロイヤルタッチとダンスインザダークがこのきさらぎ賞に出走。朝日杯2着馬エイシンガイモンを交えての激戦が予想されていたのだ。
1人気ロイヤルタッチ1.7倍、2人気ダンスインザダーク3.2倍、3人気エイシンガイモン6.6倍。4人気ドングリ15.5倍、5人気トーヨーシアトル23.3倍と開いていくオッズは、まさにどの馬が勝つかが焦点と言うこのレースの中身を示していたと言えるだろう。
それは、スタートからはっきりとレースに反映されてくることになる。
逃げるドングリの2番手につけたのはエイシンガイモンと芹沢純一騎手だった。
デビュー2戦目の黄菊賞でイシノサンデーに0秒2差、朝日杯ではバブルガムフェローの器に敗れたものの0秒1差。高いスピードと優れた操作性を発揮するエイシンガイモンの完成度の高さは、十分に通用する。
12.5 - 11.6 - 11.8
という速く流れた前半3Fの中で、乗り方一つで勝機ありと芹沢騎手はイニシアチブを取る作戦を選択した。前に行きにくい差し馬という相手と戦うには、これは至極順当な判断である。
もっとも、そこは承知とばかりにオリヴィエ・ペリエ騎手とロイヤルタッチはポジションを上手に取ってその後ろ。さらにこれをマークして武豊騎手とダンスインザダークが続いていた。
12.5 - 12.7
と中間のペースが緩んだのも京都1800mというコースと前半の速さを考えればセオリー通りである。馬群が詰まり、京都名物の坂を上り、4コーナーへと下っていく。
下位人気のナムライナズマ、オンワードアトゥ、ファンドリリョウマらもこの集団に固まっており、後方からメイデンホークとロングシコウテイが直線勝負に賭ける様相を見せていた。
そして、競馬を見つめるファン、関係者の視線を一身に集める3頭の中から、エイシンガイモンと芹沢騎手が勝負に出た。
直線が見えるやドングリを交わして先頭に立ち、そのまま逃げこみを計ろうとしたのだ。直線平坦の京都コースとその特性をつかんでいる騎手ならではの勝負である。
しかし、この戦法を取るには結果、相手が悪かった。
反応の良さで瞬時のアドバンテージを得たエイシンガイモンではあったが、ロイヤルタッチ、ダンスインザダークのギアが変わるとそのアドバンテージはほどなくして使い尽くしてしまうことになる。
決してバテていたわけではないエイシンガイモンではあったのだが、ラスト1Fではサンデーサイレンス産駒の一流馬が見せる切れ味に抗する術はなかったからだ。
12.1 - 11.9 - 11.6 - 11.5
と後半4Fはゴールへ向けて加速していく競馬になっていた。これは、上がり勝負に絶対的な強さをみせるサンデーサイレンス産駒の舞台である。
もちろん、まだ2世代目で産駒の傾向が把握しきれていなかったこの時期だけに、エイシンガイモンの作戦を責めることは出来ない。あくまでも結果論だが、あと少しペースを抑え込むか、離していくかどちらかの競馬の方がチャンスはあったのだろう。
競馬場の歓声が一段と高くなり、ラスト1Fは一騎打ちになった。2頭は並びながらエイシンガイモンを1馬身、2馬身と突き放していきデッドヒートを繰り広げていく。
500キロの体で跳ぶように加速し、圧迫するダンスインザダークを相手に430キロ台のロイヤルタッチがグイと気持ちを乗せて差し返させていく。クビ差を保って抜かせることなくゴール板を抜けたのは、まさに父譲りの強い気持ちを持つロイヤルタッチとそれを引き出していくオリヴィエ・ペリエの真骨頂といえるだろう。
ウイナーズサークルでガッチリと握手を交わし、勝利をその手につかんだ伊藤雄二調教師とペリエ騎手。後にこのきさらぎ賞でミルコ・デムーロとネオユニヴァースが示したように、ロイヤルタッチにとってもオリヴィエ・ペリエは欠かせないパートナーであったといえるだろう。
追うタイミング、ピッチ、相互理解。強い相手での接戦を2度制してきたその要因に、国際経験豊かなペリエ騎手の手腕を抜きにすることは出来ない。
しかし、ネオユニヴァースと違い、ペリエ騎手は欧州に帰り、欧州でシーズンを戦わなくてはいけない現実もすぐそこに迫っていた。先を見据える伊藤雄二調教師だけに、その心中は簡単ではなかったのではないだろうか。
その横を、涼しげに武豊騎手が通り抜けていく。
ロイヤルタッチもデビュー戦で手綱を取ったのは武豊騎手である。しかし、ラジオたんぱ杯で躊躇なくダンスインザダークを選択し3着。この日も敗れて連敗となり、取材に囲む記者からは「選択を間違えたのでは?」と揶揄するような声もあった。そこを「相手も強いですから。次は負かしたいですね」とにっこり笑ってさらりとかわしてしまうのもこの騎手らしいところ。
ひとしきり応じて、橋口弘次郎調教師の側へ戻った時「もう負けることはありません」とその目は雄弁に物語っていた。
ダンスインザダークは生まれが遅かったこともあり、デビュー当時はなかなか走ることもうまくいかず、坂路でもなかなか時計が出せなかったのだ。まさに素質だけの走りで、その様はまさに荒削りな原石だった。
しかし、ここへきて後肢の力も追いつき、坂路も真っ直ぐ駆け抜けるようになり、いよいよ本格化の様相を呈していたのだ。武豊騎手がイメージしてきた将来像に着々と近づいてきており、同じ敗戦でもこの日の走りは内容が全く違っていた。2か月後に迎えるクラシック本番での逆転をよりリアルにイメージさせる競馬であったのだ。
この走りに橋口調教師もより自信を深め「全て倒さないといけないのだから、相手は関係ない」とダービーからローテーションを逆算。弥生賞の出走をほどなく決定することになるのだった。
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